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[ACG44-P02] エアロゾルの大気沈着が亜熱帯貧栄養海域の表面クロロフィルに与える影響 ~JRAeroを使用した検証~
キーワード:沈着、エアロゾル
【緒言】
東アジアの人口密集地帯から排出されるエアロゾルには、硝酸(NO3-)やアンモニア(NH4+)の形で窒素が含まれている。これらの一部は北西太平洋の亜熱帯域へと乾性・湿性沈着する。当該海域は海の砂漠とも呼ばれるほどの貧栄養・低生産海域であり、エアロゾルの沈着は貴重な栄養塩源であると考えられている。 モデル計算では、沈着により亜熱帯域でのクロロフィル濃度やGross primary production (GPP)の有意な増加がみられている。[Taketani et al., 2018]
しかし、沈着による生物化学過程への影響を、実際の観測データによって検証した例は少ない。本発表では、気象庁の観測船データとエアロゾル再解析データセットJapanese Reanalysis for Aerosol (JRAero) [Yumimoto et al., 2017]を用いて大気から海洋表面への沈着が海洋の生物化学パラメータに与える影響を検証する。
【データ】
2011-2017年冬季(1-3月)に気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」「啓風丸」が北西太平洋亜熱帯域(北緯20-30度、東経130-165度)で行った海洋観測データの内、水深10mから取得した水温、塩分、クロロフィル濃度を使用した。
海洋に沈着して生物活動を活発にすると考えられるエアロゾルは硝酸またはアンモニアであるが、人間活動に伴う燃焼により生成する点、陸上にソースがある点を考慮してJRAeroに収録されている種類別エアロゾル沈着量(黒色炭素・有機物・硫酸・土壌・海塩粒子)の中から黒色炭素を代用指標として、同期間の海洋表面における黒色炭素の沈着量(乾性+湿性)を使用した。
【結果考察】
冬季の海洋表面におけるクロロフィル濃度は、低水温ほど高かった(図)。これは冷却による鉛直混合が発達し、深層から輸送される硝酸塩が多いことが原因とみられる。一方で、クロロフィル濃度には同程度の水温でも0.1-0.2 mg/m3程度の変動幅があり、水温以外の要素も影響しているとみられる。船上による培養実験では沈着から24-48時間程度で沈着の有無によるクロロフィル濃度に差が生じるとされている[Zhang et al., 2019]ため、観測地点における観測前24時間の黒色炭素沈着量を比較したところ、水温が同程度なら黒色炭素沈着量が多い方がクロロフィル濃度が高くなる傾向にあった。
大気沈着によって亜熱帯貧栄養域の生物活動が刺激されている可能性がモデルだけでなく、実際の観測値からも示される結果となったが、定量的な評価を行うためには時空間的にデータが不足していることが否めない。より精度の高い検証のためには、大気・海洋の両方を対象としたよりきめ細やかな観測が必要と考えられる。
【参考文献】
Taketani et al., Scientific Report, 2018.
Yumimoto et al., Geosci. Model Dev., 2017.
Zhang et al., Global Biogeochemical Cycles, 2019
【図キャプション】
海洋気象観測船「凌風丸」「啓風丸」で、2011-2017年の冬季(1-3月)に北西太平洋亜熱帯域(北緯20-30度、東経130-165度)で行った海洋観測で得られた水深10 mの水温(横軸)とクロロフィル濃度(縦軸)の関係。色は観測地点に最も近いJRAEROのグリッド点における観測前24時間の黒色炭素沈着量(乾性+湿性)を示す。
東アジアの人口密集地帯から排出されるエアロゾルには、硝酸(NO3-)やアンモニア(NH4+)の形で窒素が含まれている。これらの一部は北西太平洋の亜熱帯域へと乾性・湿性沈着する。当該海域は海の砂漠とも呼ばれるほどの貧栄養・低生産海域であり、エアロゾルの沈着は貴重な栄養塩源であると考えられている。 モデル計算では、沈着により亜熱帯域でのクロロフィル濃度やGross primary production (GPP)の有意な増加がみられている。[Taketani et al., 2018]
しかし、沈着による生物化学過程への影響を、実際の観測データによって検証した例は少ない。本発表では、気象庁の観測船データとエアロゾル再解析データセットJapanese Reanalysis for Aerosol (JRAero) [Yumimoto et al., 2017]を用いて大気から海洋表面への沈着が海洋の生物化学パラメータに与える影響を検証する。
【データ】
2011-2017年冬季(1-3月)に気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」「啓風丸」が北西太平洋亜熱帯域(北緯20-30度、東経130-165度)で行った海洋観測データの内、水深10mから取得した水温、塩分、クロロフィル濃度を使用した。
海洋に沈着して生物活動を活発にすると考えられるエアロゾルは硝酸またはアンモニアであるが、人間活動に伴う燃焼により生成する点、陸上にソースがある点を考慮してJRAeroに収録されている種類別エアロゾル沈着量(黒色炭素・有機物・硫酸・土壌・海塩粒子)の中から黒色炭素を代用指標として、同期間の海洋表面における黒色炭素の沈着量(乾性+湿性)を使用した。
【結果考察】
冬季の海洋表面におけるクロロフィル濃度は、低水温ほど高かった(図)。これは冷却による鉛直混合が発達し、深層から輸送される硝酸塩が多いことが原因とみられる。一方で、クロロフィル濃度には同程度の水温でも0.1-0.2 mg/m3程度の変動幅があり、水温以外の要素も影響しているとみられる。船上による培養実験では沈着から24-48時間程度で沈着の有無によるクロロフィル濃度に差が生じるとされている[Zhang et al., 2019]ため、観測地点における観測前24時間の黒色炭素沈着量を比較したところ、水温が同程度なら黒色炭素沈着量が多い方がクロロフィル濃度が高くなる傾向にあった。
大気沈着によって亜熱帯貧栄養域の生物活動が刺激されている可能性がモデルだけでなく、実際の観測値からも示される結果となったが、定量的な評価を行うためには時空間的にデータが不足していることが否めない。より精度の高い検証のためには、大気・海洋の両方を対象としたよりきめ細やかな観測が必要と考えられる。
【参考文献】
Taketani et al., Scientific Report, 2018.
Yumimoto et al., Geosci. Model Dev., 2017.
Zhang et al., Global Biogeochemical Cycles, 2019
【図キャプション】
海洋気象観測船「凌風丸」「啓風丸」で、2011-2017年の冬季(1-3月)に北西太平洋亜熱帯域(北緯20-30度、東経130-165度)で行った海洋観測で得られた水深10 mの水温(横軸)とクロロフィル濃度(縦軸)の関係。色は観測地点に最も近いJRAEROのグリッド点における観測前24時間の黒色炭素沈着量(乾性+湿性)を示す。