日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW21] 地域の気候変動適応策を支える学際研究

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.07

コンビーナ:手計 太一(富山県立大学)、Sompratana Ritphring(Kasetsart University)、Masashi Kiguchi(University of Tokyo)、weerakaset Suanpaga(Associate professor in Civil Engineering,Kasetsart University)

17:15 〜 18:30

[AHW21-P03] 気候変動が黒部川扇状地の地下水位に与える影響

*松浦 拓哉1、手計 太一1 (1.富山県立大学)

本研究の目的は,気候変動が黒部川扇状地の地下水位に与える影響を明らかにすることである.気候変動により気温は上昇傾向であり,将来の降水形態は降雪から降雨に変化すると指摘されている.その結果,積雪からの水供給は減少し、河川流量のピーク時期が早期化することが指摘されている.地下水も河川流量と同様に地下水位のピークが変化すると予測されている.また,降雨量の増加により,冬期の涵養量が増加し,地下水位が上昇すると予測されいる.以上を鑑み,本研究では,RCP8.5シナリオを用いて気候変動が黒部川流域の水収支と扇状地の地下水位に及ぼす影響を評価した.
使用した気象データは降水量,気温,日射量である.気象データは農業環境技術研究所から提供された,NIES統計的ダウンスケール1 kmメッシュデータを使用した.解析期間は現在気候(1981-2000年)と21世紀末(2081-2100年)で解析を実施した.本研究では分布型水収支モデルと地下水解析モデル (Dtransu)を結合したモデルを開発し,数値実験をした.降雪量の算出方法は0 ℃以下を降雪率100 %とし,4.5℃以上を降雪率0 %とした.0~4.5 ℃の降雪率は一次直線で近似させ,降水量に降雪率を乗じることで降雪量と降雨量を算出した.モデルの妥当性評価は上流域に水工施設が存在しない観測地点の河川流量と扇状地に位置する18地点の地下水位観測所,トリチウムの分析結果から算出した地下水の滞留時間で行った.その結果,河川流量,地下水の滞留時間は概ね一致しており再現することができた.一方,地下水位は全ての観測所で再現することができなかったが,扇状地全域の地下水位の等高線図は概ね再現することができた.
気温が上昇した結果,21世紀末では現在気候と比較して積雪水量が23 % (260mm)減少し,消雪時期が1ヶ月早期化することが明らかになった.その結果,黒部川流域の水収支は表面流出量,地下浸透量のピークが1ヶ月早まり,11~2月にかけて表面流出量,地下浸透量が増加する結果が得られた.扇状地の地下水位は1~3月に上昇し,5~7月に低下する結果が得られた.気候変動により,耕作期である5~6月では表面流出量の減少,地下水位の低下が生じることが明らかになり,現在の水システムのままでは耕作期の水供給を十分に行う事が出来ない可能性が示唆された.