09:45 〜 10:10
[AHW23-04] 2018年インドネシア・スラウェシ島地震で長距離流動が発生した地区の地下水について
★招待講演
キーワード:地下水、地震、地盤流動、断層
1.はじめに
2018年9月28日にインドネシアのスラウェシ島で発生した地震(MW=7.5)により、Palu市の数地区の緩やかな傾斜地盤で長距離流動が発生した。地震とともに大量の地下水も噴き出した。この地域では同様の被害が過去にも発生していて、「Nalodo」と呼ばれている。被害のメカニズムの解明や今後の防災のためにJICAで「インドネシア国中部スラウェシ州復興計画策定及び実施支援プロジェクト」の調査の一環として検討を進めてきており、筆者達もそこに参画してきた。被害のメカニズムは大変複雑であるが、噴出した地下水が関与していると考えられ水質も調査したので国内支援委員会の検討書1)をもとに報告したい。
2.地形、地震動の概要
Palu市はスラウェシ島の中部に位置する。この付近は3つのプレートの三重会合点にあたり、時計回りに回転している。これによりPalu-Koro左横ずれの断層が生じ、その変位速度は非常に早く年間約40mmと推定されている。2018年の地震では最大約5mの変位が発生した。断層間に北北西から南南東にかけて最大幅10km程度の細長い平野が形成されている。この平野はPalu-Koro断層に伴うプルアパート堆積盆にあたる構造的な沈降帯で形成されたものであり、平野中央部の深い所では約300mの厚さで第四系堆積物が堆積している。
平野の西側には2000m級の山が、東側には1000m級の山が北北西から南南東に連なっている。中央には南から北へPalu川が流れており、東西両側から川に向って1~3%程度の緩やかな傾斜地盤が形成されている。ここの表層は東西両側の山から流出した土砂で構成されている。なお、Nalodoが発生した地区の近くに温泉がある。
3.Nalodoの発生箇所および被害の概要
この地震はPalu市の中心地から北に約80km、深さ10kmで発生した。Palu市で記録された最大加速度はEW方向281cm/s2、NS方向203cm/s2、UD方向335cm/s2であり、震動による建物の被害は多くはなかった。
地震によって西側の1地区、東側の4地区の緩やかな傾斜地盤で、長さ1~3km、幅数百mの表層土が滑って下流側に向かって流動した。自宅とともに流された住民の方の動画や種々の痕跡から判断すると、数百mといった驚くべく長い距離を自転車の速さ程度のスピードで土塊が流れていっている。Nalodoの中や近くにいた人からヒアリングを行ったところ、①地震の水平揺れが終わったと同時に大きな鉛直動や盛り上がりが発生した、②水平動が終ったと同時とか2分程度以内に地下水が噴き上げたり湧き出したりし、地盤の流動変位も発生した。との証言が得られた。また、一部では温水が噴き出したとの証言もあった。
4.地下水の水質
Nalodoが発生した区域には地震前から湧水帯が南北方向に横切っている。この湧水の起源を探るため湧水帯や近くの温泉、深井戸などの水を採取し、水質を分析した。ただし、地震後数か月経っており、地震で噴きだした地下水は採取できていない。採水箇所は29箇所で、試料は河川水4試料、温泉保養地2試料、Nalodoより上流側の深井戸3試料、浅井戸3試料、Nalodo内の湧水11試料、ボ-リング揚水試験時の採水(深度別に複数試料)で延べ37サンプルである。このうち、温泉地の湧水2試料および深井戸2試料は水温40℃以上の温水である。その結果を、酸素同位体比δ18Oと水素同位体比δDの関係(δダイアグラム)で整理したところ3地点以外は天水線上にプロットされた。これに対し、温泉の水はこれから右に外れており、それを延長すると,いわゆる「有馬型」のスラブ起源流体に似た水と、古海水の間の同位体組成(エンドメンバー)になる(安原,私信)。他の2地点は1地区の湧水と深井戸(120m)からの採水でこれらは温泉水と天水線の間にプロットされた。
5.長距離流動に与えた地下水噴出の影響
地震時に噴き出したり湧き出した地下水が長距離流動を発生させたと考えられるが、噴き出しのメカニズムとしては、①浅層地盤が液状化して地下水が噴き出した、②東や西の背後の山や灌漑用水から流れてくる浅層の地下水が被圧していて噴き出した。③横ずれ断層の割目や破砕帯にあった被圧水が噴き出した、といった3つの可能性がある。ただし、種々の地盤調査や解析なども行ってきているが、複雑でありまだ結論に至っていない。
参考文献:1) JICA:液状化地すべり(内陸部)に関する国内支援委員会技術検討書、インドネシア国中部スラウェシ州復興計画策定及び実施支援プロジェクト(作成中).
2018年9月28日にインドネシアのスラウェシ島で発生した地震(MW=7.5)により、Palu市の数地区の緩やかな傾斜地盤で長距離流動が発生した。地震とともに大量の地下水も噴き出した。この地域では同様の被害が過去にも発生していて、「Nalodo」と呼ばれている。被害のメカニズムの解明や今後の防災のためにJICAで「インドネシア国中部スラウェシ州復興計画策定及び実施支援プロジェクト」の調査の一環として検討を進めてきており、筆者達もそこに参画してきた。被害のメカニズムは大変複雑であるが、噴出した地下水が関与していると考えられ水質も調査したので国内支援委員会の検討書1)をもとに報告したい。
2.地形、地震動の概要
Palu市はスラウェシ島の中部に位置する。この付近は3つのプレートの三重会合点にあたり、時計回りに回転している。これによりPalu-Koro左横ずれの断層が生じ、その変位速度は非常に早く年間約40mmと推定されている。2018年の地震では最大約5mの変位が発生した。断層間に北北西から南南東にかけて最大幅10km程度の細長い平野が形成されている。この平野はPalu-Koro断層に伴うプルアパート堆積盆にあたる構造的な沈降帯で形成されたものであり、平野中央部の深い所では約300mの厚さで第四系堆積物が堆積している。
平野の西側には2000m級の山が、東側には1000m級の山が北北西から南南東に連なっている。中央には南から北へPalu川が流れており、東西両側から川に向って1~3%程度の緩やかな傾斜地盤が形成されている。ここの表層は東西両側の山から流出した土砂で構成されている。なお、Nalodoが発生した地区の近くに温泉がある。
3.Nalodoの発生箇所および被害の概要
この地震はPalu市の中心地から北に約80km、深さ10kmで発生した。Palu市で記録された最大加速度はEW方向281cm/s2、NS方向203cm/s2、UD方向335cm/s2であり、震動による建物の被害は多くはなかった。
地震によって西側の1地区、東側の4地区の緩やかな傾斜地盤で、長さ1~3km、幅数百mの表層土が滑って下流側に向かって流動した。自宅とともに流された住民の方の動画や種々の痕跡から判断すると、数百mといった驚くべく長い距離を自転車の速さ程度のスピードで土塊が流れていっている。Nalodoの中や近くにいた人からヒアリングを行ったところ、①地震の水平揺れが終わったと同時に大きな鉛直動や盛り上がりが発生した、②水平動が終ったと同時とか2分程度以内に地下水が噴き上げたり湧き出したりし、地盤の流動変位も発生した。との証言が得られた。また、一部では温水が噴き出したとの証言もあった。
4.地下水の水質
Nalodoが発生した区域には地震前から湧水帯が南北方向に横切っている。この湧水の起源を探るため湧水帯や近くの温泉、深井戸などの水を採取し、水質を分析した。ただし、地震後数か月経っており、地震で噴きだした地下水は採取できていない。採水箇所は29箇所で、試料は河川水4試料、温泉保養地2試料、Nalodoより上流側の深井戸3試料、浅井戸3試料、Nalodo内の湧水11試料、ボ-リング揚水試験時の採水(深度別に複数試料)で延べ37サンプルである。このうち、温泉地の湧水2試料および深井戸2試料は水温40℃以上の温水である。その結果を、酸素同位体比δ18Oと水素同位体比δDの関係(δダイアグラム)で整理したところ3地点以外は天水線上にプロットされた。これに対し、温泉の水はこれから右に外れており、それを延長すると,いわゆる「有馬型」のスラブ起源流体に似た水と、古海水の間の同位体組成(エンドメンバー)になる(安原,私信)。他の2地点は1地区の湧水と深井戸(120m)からの採水でこれらは温泉水と天水線の間にプロットされた。
5.長距離流動に与えた地下水噴出の影響
地震時に噴き出したり湧き出した地下水が長距離流動を発生させたと考えられるが、噴き出しのメカニズムとしては、①浅層地盤が液状化して地下水が噴き出した、②東や西の背後の山や灌漑用水から流れてくる浅層の地下水が被圧していて噴き出した。③横ずれ断層の割目や破砕帯にあった被圧水が噴き出した、といった3つの可能性がある。ただし、種々の地盤調査や解析なども行ってきているが、複雑でありまだ結論に至っていない。
参考文献:1) JICA:液状化地すべり(内陸部)に関する国内支援委員会技術検討書、インドネシア国中部スラウェシ州復興計画策定及び実施支援プロジェクト(作成中).