日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 都市域の水環境と地質

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.07

コンビーナ:林 武司(秋田大学教育文化学部)、宮越 昭暢(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)

17:15 〜 18:30

[AHW24-P03] 埼玉県における地中熱源ヒートポンプ実証試験と地下温度変化

*濱元 栄起1、白石 英孝1、中山 雅樹2、内山 真悟2、石黒 修平3、竹島 淳也3 (1.埼玉県環境科学国際センター、2.埼玉県環境部エネルギー環境課、3.応用地質株式会社)

キーワード:地中熱源ヒートポンプ、地下温度、地下水流動

地中熱利用システムは、再生可能エネルギーのひとつであり、省エネ効果に優れ国内外で普及し始めている。特に地中熱源ヒートポンプ(以下、地中熱HPと記す)は冷暖房や給湯などの用途で大型施設や住宅など幅広く利用されている。そしてこの地中熱HPの将来的な普及のためには、地中熱HPと空気熱源ヒートポンプ(以下、空気熱HPと記す)の運転効率やコスト、環境への効果等を実証試験によって定量的に比較することが重要である。これらのヒートポンプは設置場所の気象条件や熱負荷によって運転効率が変わり、さらに地中熱HPについては、地下環境条件によっても効率が変わることが知られている。したがって実証試験は条件の異なる複数地点で行うことが望ましい。また、熱負荷という観点では住宅分野における地中熱HPの普及余地が大きいことから、住宅の部屋を想定した規模の実証試験を地域内で実施することが望まれてきた。そこで埼玉県では、2018年度に県内5地点の小規模な建物内に地中熱HPと空気熱HPの両方を設置した。5地点のうちの4地点(飯能市、羽生市、宮代町、春日部市)は、大気常時監視のための測定局(大気監視局)のコンテナであり、1地点(加須市)は環境科学国際センターのエコロッジ棟である。
 実証試験を行った4地点の大気監視局では地中熱HPと空気熱HPの運転効率を調べる目的で、一般的な住宅の設定温度(冷房27℃、暖房25℃)で冷房及び暖房の連続運転試験を行った。具体的には夏季及び冬季にそれぞれのHPを15日間隔で交互に運転し、2次側循環液の出入口温度、循環流量、消費電力等を計測して、SCOP(30日間の平均)を算出した。その結果、冷房運転の場合にはSCOPの4地点の平均値は、地中熱HPが5.7、空気熱HPが2.6、暖房運転の場合には地中熱HPが3.0、空気熱HPが2.4であった。いずれの地点でも地中熱HPのほうが効率は高かった。同一地点の冷房運転と暖房運転を比較すると冷房運転の効率の方が高く、この傾向は既存の実証試験等とも整合的である。 
 実証試験を行った5地点のうち2地点(加須市のエコロッジ棟と宮代町の大気監視局)においては、熱交換井近傍の温度変動を調べるための観測井(熱交換井から2m離れた位置に6本、5m離れた位置に1本)を設置した。特にエコロッジ棟では最大負荷(冷房22℃、暖房25℃)で冷房と暖房の運転を実施した。具体的には約30日間は高負荷で運転し、地下温度の上昇又は低下の過程を、その後の60日間は運転を停止し、地下温度の回復過程をモニタリングした。ここでは冷房運転の試験結果を示す。試験の結果、熱交換井から2m離れた観測井(西2m井)で2℃上昇し、5m離れた観測井(西5m井)での大きな温度上昇は認められなかった。次に熱交換井から周囲へ熱拡散によって熱伝播するものとして、有限要素法による数値シミュレータ(FEFLOW)で温度の時間変化を計算した。図にモニタリングを開始してから90日後の深度40mの面的な温度分布を示す。熱交換井から同心円状に周囲に熱が広がることが確認できた。熱交換井から離れた2mの観測井(西2m)と5m離れた観測井(西5m)のそれぞれの実測値と計算値を比較すると両者は整合的であり、熱の伝播が熱拡散と想定することで概ねうまく説明できそうである。ただし、細かく見ると西2m観測井と東2m観測井の実測温度は、加熱過程では同じ割合で上昇するのに対して、回復過程では、0.5℃程度の差異(東2mのほうが温度が高い)が生じており、熱物性の違いや地下水流動による影響等が考えられる。これらの要因も考慮した解析を今後行う予定である。

謝辞:本実証試験においては、地中熱利用促進協会の笹田政克理事長にご助言を頂き、システムの設置には、(株)PEC、(株)アグリクラスター、(株)ホームエネシス、(株)コロナにお力添えを頂きました。また、本実証試験においては、科研費19K12436、19K12364、19K12365によって得られた知見等も踏まえ実施しました。ここに記して謝意を表します。