日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS15] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2021年6月4日(金) 09:00 〜 10:30 Ch.09 (Zoom会場09)

コンビーナ:古市 尚基(国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産技術研究所)、森本 昭彦(愛媛大学)、一見 和彦(香川大学農学部)、高橋 大介(東海大学)、座長:古市 尚基(国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産技術研究所)、森本 昭彦(愛媛大学)、Tomaso Esposti Ongaro(Istituto Nazionale di Geofisica e Vulcanologia, Italy)、Sakshi Ramesh Shiradhonkar (Department of Environment Systems, University of Tokyo)

09:15 〜 09:30

[AOS15-02] 高解像度粒子追跡モデルを用いた大槌湾内でのアワビ幼生の輸送及び着底分布の推定

*松村 義正1、坂本 天1、峰岸 有紀1、早川 淳1、小松 幸生1、田中 潔1、濵﨑 恒二1、河村 知彦1 (1.東京大学 大気海洋研究所)

キーワード:粒子追跡、大槌湾、アワビ幼生

アワビは三陸における重要な水産資源である。本研究では高解像度海洋循環モデルに基づく3次元粒子追跡によって、大槌湾におけるアワビ幼生の分散過程とその定着分布を推定した。流動場は多段ネスト版COCOによる気候値フォーシング実験の結果を用いた。多段ネストの最内領域となる大槌湾の格子幅は約14mであり、防波堤などの人工物を含む複雑な湾の形状が解像されている。10m等深線に沿って配置した20の産卵地点からアワビ卵/幼生を模した粒子を5分間隔で継続的に投入した。各粒子は3次元流動場による移流・ランダムウォークによる垂直乱流分散・波浪ブイ観測から推定したうねりに対応するストークスドリフト・静水中の観察に基づく幼生の沈降速度の和から4次ルンゲクッタ法で計算される。アワビ幼生の生態に関する知見に基づき、各粒子は放出後4日で着底能力を得るとし、以後に生存に適した海底(サンゴモの生息地)に到達するとそこに着底したとみなす。ただし14日までに着底できなかった粒子は死亡するとし、計算から除外した。積分期間は7月1日から10月30日までであり、計4,216,320個の粒子を放出・追跡した。

粒子追跡計算から得られた着底分布は、湾の北東岸において実際の現場観測から得られた知見と整合している。湾口の南側岬近傍の海台状地形が顕著な着底集中域となっているが、この地点は未調査であり、今後の現地調査によりモデル計算の検証を行う予定である。また湾外に流出した粒子の一部は南西岸に到達して着底している。このような出生湾の外部での着底・生育が大槌湾に限らず三陸の各湾で生じているとすると、湾陸各湾をまたぐアワビのコネクティビティが確立している可能性がある。本実験の設定では粒子は海面付近に長く浮遊しないため、うねりによるストークスドリフトの影響は限定的であった。一方流速場を24時間平均した実験では湾内に着底する粒子数が約2倍となり、潮汐が重要な役割を果たす可能性が示唆された。