日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS15] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:05 Ch.09 (Zoom会場09)

コンビーナ:古市 尚基(国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産技術研究所)、森本 昭彦(愛媛大学)、一見 和彦(香川大学農学部)、高橋 大介(東海大学)、座長:古市 尚基(国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産技術研究所)、森本 昭彦(愛媛大学)、Tomaso Esposti Ongaro(Istituto Nazionale di Geofisica e Vulcanologia, Italy)、Sakshi Ramesh Shiradhonkar (Department of Environment Systems, University of Tokyo)

11:30 〜 11:45

[AOS15-10] 瀬戸内海西部における栄養塩の長期変動とその供給機構に関する研究

*小川 颯兵1、吉江 直樹1、大西 秀次郎1 (1.愛媛大学沿岸環境科学研究センター)

キーワード:河川水の流入、底入り潮、降雨

瀬戸内海西部海域の豊後水道における栄養塩の供給機構としては,河川水の流入による陸からの供給だけではなく,黒潮系亜表層水が豊後水道に進入する現象である底入り潮に起因する外洋からの供給があることが示唆されてきた(武岡 2020).その豊後水道最北部に位置し,豊後水道と伊予灘を繋ぐ佐田岬半島と大分県佐賀関半島に挟まれた狭い海峡である豊予海峡では,非常に強い潮流により海峡周辺の広域にわたる水塊が水平的に移流されるだけでなく鉛直的にも強く混合されている.このことから佐田岬周辺海域の栄養塩濃度は瀬戸内海西部海域の大半を占める豊後水道および伊予灘の栄養塩濃度を代表していると見なすことができる.本研究では,この佐田岬周辺における栄養塩濃度の季節・経年変動とクロロフィル濃度の変動との関連性について,またそれらの経年変動と陸域および外洋からの栄養塩供給の変動との関連性を調べることを目的とした。愛媛大学CMESと三崎漁協との共同研究により,佐田岬半島先端部において,2004年から現在まで毎日モニタリングされてきた溶存態無機態窒素(DIN),溶存態無機態リン(DIP),溶存態無機態珪素(DISi)の濃度,クロロフィル濃度の高頻度時系列データと,気象庁AMEDASによる気象データ, 国土交通省の一級河川流量・栄養塩濃度データ,宇和海水温システムによる多層水温データを用いて包括的な解析を行った. その結果,栄養塩濃度の季節変動は,春季に最小値を示し夏季には増加する変動パターンを示し,夏季に最小値をとる一般的な中緯度海域の季節変動とは異なるものであった.この理由としては,夏季の植物プランクトンの栄養塩利用量以上の栄養塩供給が陸域と外洋の双方からもたらされることに起因する.そのメカニズムとしては,梅雨や台風の影響により5月下旬から9月にかけて降雨量が増加することで河川水の流入が増加するだけでなく,この海洋への淡水供給により沿岸-外洋間の密度差が増加し,豊後水道底層への外洋水進入が強化されるためであると考えられた。また, 8月の台風などにより大量の溶存態無機窒素が陸域から供給された年には,その後3か月間にわたり植物プランクトンの増加が生じていることが明らかとなった.そして,近年,貧栄養化問題として注目されている瀬戸内海東部海域における栄養塩の経年的な減少トレンドは、豊後水道や伊予灘を代表する佐田岬周辺においては生じていないことが明らかとなった。