日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS15] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.08

コンビーナ:古市 尚基(国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産技術研究所)、森本 昭彦(愛媛大学)、一見 和彦(香川大学農学部)、高橋 大介(東海大学)

17:15 〜 18:30

[AOS15-P01] 房総半島九十九里沖海域における海底からの天然ガス湧出現象

*鈴村 昌弘1、長尾 正之1、山岡 香子1、清家 弘治1、高橋 暁1、塚崎 あゆみ1、鈴木 淳1、田村 亨1、宇都宮 正志1、北牧 祐子1、青木 伸行1、太田 雄貴1、吉田 剛2、荻津 達2、石井 光廣3、小宮 朋之3、高草木 将人3、鈴木 孝太3、石田 洋4、小倉 利雄5 (1.国立研究開発法人産業技術総合研究所、2.千葉県環境研究センター、3.千葉県水産総合研究センター、4.公益財団法人海洋生物環境研究所、5.九十九里漁業協同組合)

キーワード:天然ガス湧出、栄養塩、沿岸海域、マルチビームソナー、南関東ガス田

九十九里を含む房総半島はわが国最大級の水溶性ガス田である南関東ガス田に位置しており、古くから産業用や一般家庭用に天然ガス資源が利用されてきた。また土壌から湧出する天然ガスにより、農作物の生育阻害や最悪の場合はガス爆発事故が引き起こされるなどの大きな被害も発生している。これら陸域内の天然ガス湧出ケースに比較して、房総半島の海域の状況については詳しいことは分かっていない。九十九里浜の潮溜まりから湧出する天然ガスについての報告はあるが(吉田ら, 2012)、沖合についての情報はほとんど見られない。

 天然ガス湧出現象を除いても、九十九里沖は海洋学・水産海洋学的に極めて興味深い海域である。イワシやハマグリなどの好漁場として古くから知られ、豊富な植物プランクトンがこの地域の高い漁業生産を支えている。一方で、九十九里には流入する大きな河川がなく、植物プランクトンの一次生産を支える陸域から栄養塩の流入ソースがよく分かっていない。また遠浅の海底地形を考えると、外洋からの深層水流入も主要な栄養塩ソースとしては考え難い。

 南関東ガス田のガスが溶解している地下水(鹹水)は高濃度のヨウ素を含有し、同地域は国内で最大(世界でも屈指)のヨウ素の産出量を誇る。この鹹水にはアンモニア性窒素が高濃度で含有されることが知られている。従って陸上で観察されていると同様に沖合の海底においてもガス湧出が生じているのであれば、ガスと共に地下の鹹水に含まれる窒素が湧水として海域に供給されている可能性が考えられる。また鹹水中のリン濃度に関する知見は乏しいものの、微生物的作用による天然ガスの嫌気的分解を考慮すると、ガス湧出域近傍の堆積物は還元的な環境に晒されると推定される。堆積物からのリンの溶出は還元環境下で著しく促進されることから、リンの供給についても天然ガス湧出が影響を及ぼしている可能性について検討する必要性は高い。
 本研究では、これまでに海岸線で天然ガス湧出が確認されている九十九里海岸の沖合海域に着目し、魚群探知機及びマルチビームソナー(MBES)を用いた音響探査による海底からのガス湧出の検出とその分布の把握を試みた。MBES観測では水深およそ14~20 m、500 x 2000 mの範囲の密な調査によって多数のガス湧出の検出に成功し、特にガス湧出が密集した水深帯の存在を明らかにした。またダイバーや水中ドローンの観察により海底からガスのバブルが勢いよく湧き出している状況を確認するとともに、周辺の海水、堆積物、湧出ガスなどのサンプリングを実施した。講演では採取した試料の各種分析結果についても併せて報告する予定である。