日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS16] 全球・海盆規模海洋観測システムの現状、研究成果と将来展望

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.06

コンビーナ:細田 滋毅(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、増田 周平(海洋研究開発機構)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)、藤木 徹一(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[AOS16-P01] 教師なしクラスタリングに基づく中緯度北西太平洋における水温・塩分の鉛直構造の時空間変動

★招待講演

*三部 文香1、須賀 利雄1,2 (1.東北大学 大学院理学研究科、2.海洋研究開発機構)


キーワード:中緯度北西太平洋、黒潮続流、Argoフロート、教師なしクラスタリング、データ駆動科学、海洋構造

中緯度北西太平洋では亜熱帯系および亜寒帯系の水の輸送や攪拌,混合が起きており,異なる海洋構造で特徴づけられる多様な領域に分かれている.この海洋構造の特徴や分布について,これまでに多くの研究が行われ,領域の境界や,特徴的な水塊などが定義されてきた.この海域の海洋構造や水塊に関わる研究の多くでは,着目する構造や水塊についての,時空間的に限られたデータに基づく既存の定義を拠り所に記述や解析が行われてきた.Argo観測網拡充に伴って大量の鉛直プロファイルデータが時空間的に満遍なく利用可能になった現在においても,基本的な研究の枠組みは大きく変わっていない.しかし,Argoによって蓄積された時空間的偏りの小さい膨大なデータをもってすれば,データ駆動科学的な手法,すなわち機械学習によって海洋構造の特徴を客観的に捉え直すことができる可能性がある.海洋の鉛直プロファイルデータを対象とした機械学習の手法として,Maze et al. (2017)により開発されたProfile Classification Model (PCM) がある.これはプロファイルを混合ガウスモデルによる教師なしクラスタリングで分類するものであり,クラス分けの確実さを定量化する指標,ラベリングメトリックを用いた解析を行えるのが大きな特徴である.先行研究により,PCMでクラスタリングを行うとそれぞれのクラスの鉛直構造と空間分布が,ある特定の海洋構造とそれが主に分布する領域を表すことが示されている.そこで本研究では,PCMを中緯度北西太平洋のArgoフロートによる水温・塩分プロファイルに初めて適用し,その結果を海洋構造についての従来の知見と比較した.また,中緯度北西太平洋の海洋構造の時空間変動に影響を与えると考えられる黒潮続流の流路形態の安定・不安定を測る指標であるKuroshio Extension index(KE index) をもとに結果をグループ分けし,各グループに見られた特徴を考察することで,PCMの結果から海洋構造の時空間変動を理解することを試みた.
 本研究では北緯30度から60度まで,東経140度から180度までの範囲で,Argoによる水温・塩分プロファイル57476点に対し,PCMによるクラスタリングを行った.統計的な基準と初期値依存性の検討に基づき,クラス数を5に設定した結果,クラス1,2,3,4,5がそれぞれ亜寒帯域,混合水域,亜熱帯亜寒帯中間域,亜熱帯循環北西部,黒潮続流下流域の5つの領域を形作るように分布し,クラスごとに異なる海洋構造の特徴を示していた.この分布域と特徴の関係は,主に特定の水塊や鉛直構造に着目して過去の研究が記述してきた領域と海洋構造の関係と対応していた.また各クラスの分布がKE indexによってどのように変化するかを調べたところ,クラス4の分布域の形状や,黒潮続流下流域においてクラス5以外のクラスが混在する程度が変化する様子が確認できた.この分布域の変化は,黒潮続流の流路形態による流軸の南北移動から予想される結果と一致していた.ラベリングメトリックが低いプロファイルの分布を調べたところ,クラスの主な分布域の境界付近に集中して分布していた.これは領域境界での「混合」を反映している可能性がある.また,ラベリングメトリックが低いプロファイルが全プロファイルに占める割合が,KE indexに対して有意な負の相関を持っていることが確認され,黒潮続流の流路が不安定な時期ほどクラス間の「混合」が活発になることが示唆された.