日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS17] 海洋化学・生物学

2021年6月4日(金) 15:30 〜 17:00 Ch.11 (Zoom会場11)

コンビーナ:三角 和弘(電力中央研究所 環境科学研究所)、安中 さやか(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:三角 和弘(電力中央研究所 環境科学研究所)、安中 さやか(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

16:15 〜 16:30

[AOS17-04] 北太平洋における海洋中溶存亜鉛濃度分布に関するモデル研究

*杉野 公則1、岡 顕1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:GEOTRACES、亜鉛、珪素、物質循環モデル、海洋化学

海洋中においてZnはごく少量のみ溶存する微量金属であるが, 海洋での生物活動にとって重要な役割を果たし, 生物地球化学的に重要な元素である. 全球海洋中においての溶存Znの分布はSiの分布と類似していることが1980年代の研究から指摘されていた.しかし, 海洋中のSi分布は珪藻殻オパールによる取り込みにより決定されるのに対し, Znは珪藻殻オパールにほとんど含まれておらず, むしろZnは珪藻細胞内において有機物質として存在している.そのため, Zn分布は代表的栄養塩であるPと類似していると考えられるが, そうなっておらず, ZnとSiのカップリングの機構について議論がなされてきた. 近年, GEOTRACESプログラムの進行により, 海洋中の溶存Znの観測データが飛躍的に増え始めていることを背景に海洋中溶存Znサイクルプロセスについての議論が加速している. Vance et al.(2017) は南大洋表層での植物プランクトンによる過剰なZnの取り込みが南大洋表層からZnを枯渇させ, そうしてできた特徴的な水塊が海洋内部へと輸送されることで, 結果としてSiの分布と類似するという南大洋仮説をモデルを使った実験によって提示した. 彼らのモデルでは, ZnはPと結びついたモデル設定, ZnとSiとは独立したモデル設定だったにもかかわらず, 全球でZnとPの相関よりもZnとSiの方が相関がよくなり, 観測事実に即したZnとSiのカップリングが再現された. 一方, Kim et al.(2017) は北太平洋においてZnとSiの相関関係が崩れるという観測事実を報告した. このことは全球でのZnとSiのカップリング関係を議論したVance et al.(2017)では注目されていないことだった. そこで, 本研究では海洋中のZn分布が北太平洋において Vance et al.(2017) の南大洋仮説だけでは不十分であるという先行研究を踏まえ, Zn分布の支配プロセスを北太平洋のZnとSi分布のデカップリングに着目して, 解明することを目的とした. 本研究でのZnの基本的なモデル設定は Vance et al.(2017) 同様のPと結びつけたモデル設定を使用した. Vance et al.(2017) が行っていないパラメータ設定でも実験を行ったが, いずれの結果も観測の北太平洋 Zn-Si デカップリングを再現できず, 北太平洋での高濃度Znの再現には Vance et al.(2017) のモデルに追加のプロセスが必要であると考えられた. そこで北太平洋大陸棚からの微量金属の流出を本研究のZnに取り入れた実験を行った. これは Kim et al.(2017) において北太平洋のZn分布を支配するプロセスとして考察されていた仮説をモデルに取り入れたものである. オホーツク海とベーリング海の大陸棚に強制的にZnを与えることで北太平洋において Zn- Si デカップリングが生じるかを検証したところZn-Siデカップリングの傾向が見られた. 実験の結果から, 北太平洋大陸棚から北太平洋へZn供給がなされ, 海洋中をZnが長距離輸送される可能性が示唆された.