日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS18] 黒潮大蛇行

2021年6月3日(木) 15:30 〜 17:00 Ch.07 (Zoom会場07)

コンビーナ:美山 透(国立研究開発法人海洋研究開発機構・アプリケーションラボ)、碓氷 典久(気象研究所)、平田 英隆(立正大学)、瀬藤 聡(国立研究開発法人水産研究・教育機構)、座長:平田 英隆(立正大学)、瀬藤 聡(国立研究開発法人水産研究・教育機構)

16:15 〜 16:30

[AOS18-04] 黒潮大蛇行に起因した関東地方の夏季気温上昇

*杉本 周作1、Bo Qiu2、Niklas Schneider2 (1.東北大学大学院理学研究科、2.ハワイ大学)

キーワード:黒潮大蛇行、暑夏、関東地方、温室効果、不快指数

人口が集中している関東地方の夏季気候場は高温多湿で特徴づけられる。関東地方の南岸には黒潮が流れており、2017年夏に大蛇行流路に遷移し、3年半が経過した今でも継続時中である。かつては、大蛇行期には関東・東海沖黒潮内側域は下層冷水湧昇により低温になるとされていた。ところが、近年の高解像度の衛星観測は、大蛇行期に出現する黒潮分岐流に伴い内側域の北縁、すなわち関東・東海沿岸の水温が上昇することを示し、ときには3度以上も高温になることが明らかになった(Sugimoto et al. 2020)。そこで、本研究では、この沿岸昇温が日本の夏季気候、とくに関東地方に及ぼす影響を評価するために気象庁非静力学大気モデルを用いて数値実験を実施した。本実験では沿岸昇温の影響を十分に分解できるように空間解像度を5 kmとした。また、鉛直数は51層で、上空大気境界層を表現できるよう上空2 km 内に19層を配置した。実験の結果、沿岸昇温は海洋からの蒸発を促進して大気下層の水蒸気を増加させるとともに、沿岸昇温域の鉛直混合効果によって地表付近の風に影響を与えることが見いだされた。そして、これら2つの変化は関東地方の水蒸気量の増加をもたらし、これに起因した下向き長波放射量の増加が関東地方の地表気温上昇に寄与することが示された。つまり、沿岸昇温期では局所的温室効果の結果として関東地方は高温多湿の夏になることがわかった。また、不快指数の観点で、沿岸昇温期には不快と分類される日が2倍に増加することが導出された。加えて、AMeDAS等の観測資料を用いて統計解析を実施した結果、黒潮大蛇行に起因した沿岸昇温の日本の夏季気温場への影響は、Pacific-Japan パターンなどの既知の大気テレコネクションパターンやEl Niñoなどの気候パターンと比較しても十分に大きいことが明らかになった。以上より、本州南方での黒潮の大蛇行/直進流路等の流路形態が、局所的大気海洋相互作用を通じて関東地方をはじめとする日本の夏季気候場の形成に重要であることを提案する。