日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG03] 地球惑星科学 生命圏フロンティア

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.16

コンビーナ:加藤 真悟(国立研究開発法人理化学研究所)、高野 淑識(海洋研究開発機構)、鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

17:15 〜 18:30

[BCG03-P01] 汚染土壌からの重金属溶出挙動:表面錯体モデリングによるアプローチ

*武田 夏泉1、福士 圭介2、ガンフレル バーサンスレン1、奥山 晃浩1 (1.金沢大学、2.金沢大学環日本海域環境研究センター)

キーワード:表面錯体モデリング、重金属、脱離

表層土壌は人間活動に与える影響が大きく、土壌中の成分が水に溶け出して農作物に吸収されることで有害元素が体内に取り込まれる可能性がある(原 他2012)。ここで重要なのは土壌の重金属含有量ではなく、溶け出すのかということであり溶け出さなければ問題ない。代表的な重金属であるCd, Pb, Asの土壌環境基準は0.01mg/Lとされている(環境省)。単位にもあるように、日本の土壌重金属汚染はは水への溶出量によって定義されている。産総研地質総合センターでは日本土壌の重金属溶出マップを作成している(原 他2012)。かつて鉱山活動が盛んであった北陸地方では、一部有害元素に関しては土地利用によっては大きく人体に影響を及ぼすバックグラウンドレベルの地域があることが知られている。北陸において土壌重金属によるリスクの大きい地域の一つに亀谷鉱山がある。亀谷鉱山は1596~1680年と1887~1898年に操業して銀や鉛を産出していた(Baasansuren et al. 2020)。本地域の土壌からの水溶出試験によるとCdは国内環境基準である0.01mg/L未満であるのに対し、Pbは環境基準(0.01mg/L)の18~46倍、As(基準0.01mg/L)は2~5倍の濃度が溶出した(原 他2012)。現在亀谷鉱山は山間部に位置し、長期的に人間活動が行われる場所ではないため重金属の人体への影響は懸念されていない。しかし亀谷鉱山の近くには河川が流れており、As濃度が基準値を超えている支流が確認されている(Baasansuren et al. 2020)。さらに、鉱物に吸着した重金属の多くは接触する水の化学的条件(pHや塩濃度)に依存し、溶出量が大きく変化することが報告されている(Usiyama and Fukushi 2016など)。一方、先行研究で行われたJIS規格に基づく水溶出試験は水に風乾試料(水:土壌=10:1)を入れて振とうするというものであり、水の化学的条件を考慮せずに行っているため、土壌からの重金属溶出挙動の理解にとって十分とは言えない。
 重金属の溶出挙動は鉱物表面への吸着プロセスに大きく依存している。水と接している鉱物表面は表面水酸基に覆われる。低pHでは表面水酸基は水素イオンを吸着して正に帯電するため陰イオンを吸着し、高pHでは水素イオンを脱離して負に帯電するため陽イオンを吸着する。このような吸着反応を定量的・理論的に取り扱う方法として表面錯体モデリングがある(福士 2008 )。表面錯体モデリングとはイオンの吸着を鉱物表面水酸基と溶質の錯体反応として化学平衡論を用いて示す方法である。この方法を用いることで任意の水質条件における脱離挙動を理論的に評価することができる。
 本研究では亀谷鉱山から採取した複数の有害元素を含む汚染土壌からの有害元素の溶出挙動を様々な水質条件の関数として特徴づけることを目的とする。pH、塩濃度を示すイオン強度、固液比、時間を変えて脱離実験を行い、有害元素の溶出挙動を明らかにするとともに表面錯体モデリングを利用して吸着・脱離メカニズムを考察する。