17:15 〜 18:30
[BCG03-P06] 単細胞性紅藻Galdieria sulphurariaにおける高濃度鉄耐性機構の解明
キーワード:Cyanidiophyceae、Galdieria sulphuraria、鉄ストレス、mRNA-seq
導入
Cyanidiophyceaeは、世界各地の温泉地などの高温・強酸性条件(至適培養条件:pH 2-3, 42℃)に適応した極限環境生物の一種である。Galdieria sulphurariaはCyanidiophyceaeの中で最も環境耐性能力が高く、自然界でも生息する環境の90%以上のバイオマスを占める優占種である (Schönknecht et al. 2013)。
Cyanidiophyceaeが生息する高温・強酸性条件は金属が非常に溶けやすいため、火山地帯や鉱山地付近の河川などでは数百mMを超える鉄が含まれる環境での生息が報告されている (Baker et al. 2004)。実験室内においては、200 mM Al存在下での増殖が報告されており (Yoshimura et al. 1999)、Cyanidiophyceaeは中性域に生息する多くの生物よりも数百から千倍ほど高い金属耐性を示す。
高濃度の金属耐性機構について、生物に広く保存されるポリリン酸の関与が報告されている (Nagasaka et al. 2003)が、強酸性条件では金属の化学形態や吸着・吸収速度が中性領域とは全く異なることから、既知のメカニズムに加えて、新たな金属耐性機構の存在が予想される。また、全ゲノム配列の解析から、古細菌やバクテリアからの遺伝子の水平転移が極限環境への適応を促進したと言われている (Schönknecht et al. 2013)が、水平転移により獲得された多くの遺伝子が機能未知であり、G. sulphurariaのもつ高い金属耐性のメカニズムはほとんどわかっていない。
そこで私達は、G. sulphurariaを研究材料として、生物にとって必須元素であると同時に、高濃度では毒性を示す鉄に着目し、その耐性機構を明らかにすることを目的として研究を行った。
結果と考察
最初に、0.03, 0.3, 3, 30, 100, 300 mM FeSO4を含む培地を作製し、G. sulphurariaの増殖への影響を調べた。その結果、100 mMまでは、増殖速度と最終ODは通常培養条件と同様であったのに対して、300 mMではG. sulphurariaは増殖しなかった。G. sulphurariaは300 mM H2SO4を含む培地でも通常培養条件と同様の増殖を示すことから、300 mM FeSO4を含む培地で増殖しなかった原因は、高濃度のFeが原因であると考えられた。
培養液上清のFe濃度を測定したところ、3 mM FeSO4添加条件では、添加1日後から2日後の間に培養上清のFe濃度は0.3 ± 0.1 mMまで急激に低下した。100 mM FeSO4添加条件では、2日後の培養液上清の鉄の濃度は98 ± 3 mMであったが、細胞数の増加に伴い6日目には77 ± 3 mMに低下した。これらの結果から、3 mM FeSO4添加条件では、細胞が培養液中のFeを吸収して細胞外のFe濃度を減らすことで通常培養と同様に増殖するメカニズムが存在するのに対して、100 mM FeSO4添加条件では、細胞がFeを吸収するメカニズムに加えて、細胞外に大量の鉄が存在しても、通常培養と同様の増殖を維持するメカニズムが存在することが予想された。
3 mM以上のFeSO4添加条件でレクチン-FITCで染色される多糖を含む細胞表層の構造が形成された。この構造は、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドの添加により形成されなかったことから、高濃度のFeSO4添加により誘導される新規のタンパク質合成を伴うことがわかった。さらに、この構造は、100 mM FeSO4添加後には6時間でその形成が始まった。そこで、細胞表層の構造の形成を含む高濃度の鉄耐性機構の全容を理解することを目的として、現在、100 mM FeSO4添加後0, 1, 3, 6, 24, 48時間後のRNAのサンプリングを用いてmRNA-seq解析を行っている。発表では、mRNA-seqの結果もあわせて、G. sulphurariaにおける高濃度鉄耐性機構についてディスカッションを行いたい。
参考文献
1. Schönknecht et al., Science 339, 1207–1210 (2013).
2. Baker et al., Appl. Environ. Microbiol. 70, 6264–6271 (2004).
3. Yoshimura et al., Soil Sci. Plant Nutr. 45, 721–724 (1999).
4. Nagasaka et al., BioMetals 16, 465–470 (2003).
Cyanidiophyceaeは、世界各地の温泉地などの高温・強酸性条件(至適培養条件:pH 2-3, 42℃)に適応した極限環境生物の一種である。Galdieria sulphurariaはCyanidiophyceaeの中で最も環境耐性能力が高く、自然界でも生息する環境の90%以上のバイオマスを占める優占種である (Schönknecht et al. 2013)。
Cyanidiophyceaeが生息する高温・強酸性条件は金属が非常に溶けやすいため、火山地帯や鉱山地付近の河川などでは数百mMを超える鉄が含まれる環境での生息が報告されている (Baker et al. 2004)。実験室内においては、200 mM Al存在下での増殖が報告されており (Yoshimura et al. 1999)、Cyanidiophyceaeは中性域に生息する多くの生物よりも数百から千倍ほど高い金属耐性を示す。
高濃度の金属耐性機構について、生物に広く保存されるポリリン酸の関与が報告されている (Nagasaka et al. 2003)が、強酸性条件では金属の化学形態や吸着・吸収速度が中性領域とは全く異なることから、既知のメカニズムに加えて、新たな金属耐性機構の存在が予想される。また、全ゲノム配列の解析から、古細菌やバクテリアからの遺伝子の水平転移が極限環境への適応を促進したと言われている (Schönknecht et al. 2013)が、水平転移により獲得された多くの遺伝子が機能未知であり、G. sulphurariaのもつ高い金属耐性のメカニズムはほとんどわかっていない。
そこで私達は、G. sulphurariaを研究材料として、生物にとって必須元素であると同時に、高濃度では毒性を示す鉄に着目し、その耐性機構を明らかにすることを目的として研究を行った。
結果と考察
最初に、0.03, 0.3, 3, 30, 100, 300 mM FeSO4を含む培地を作製し、G. sulphurariaの増殖への影響を調べた。その結果、100 mMまでは、増殖速度と最終ODは通常培養条件と同様であったのに対して、300 mMではG. sulphurariaは増殖しなかった。G. sulphurariaは300 mM H2SO4を含む培地でも通常培養条件と同様の増殖を示すことから、300 mM FeSO4を含む培地で増殖しなかった原因は、高濃度のFeが原因であると考えられた。
培養液上清のFe濃度を測定したところ、3 mM FeSO4添加条件では、添加1日後から2日後の間に培養上清のFe濃度は0.3 ± 0.1 mMまで急激に低下した。100 mM FeSO4添加条件では、2日後の培養液上清の鉄の濃度は98 ± 3 mMであったが、細胞数の増加に伴い6日目には77 ± 3 mMに低下した。これらの結果から、3 mM FeSO4添加条件では、細胞が培養液中のFeを吸収して細胞外のFe濃度を減らすことで通常培養と同様に増殖するメカニズムが存在するのに対して、100 mM FeSO4添加条件では、細胞がFeを吸収するメカニズムに加えて、細胞外に大量の鉄が存在しても、通常培養と同様の増殖を維持するメカニズムが存在することが予想された。
3 mM以上のFeSO4添加条件でレクチン-FITCで染色される多糖を含む細胞表層の構造が形成された。この構造は、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドの添加により形成されなかったことから、高濃度のFeSO4添加により誘導される新規のタンパク質合成を伴うことがわかった。さらに、この構造は、100 mM FeSO4添加後には6時間でその形成が始まった。そこで、細胞表層の構造の形成を含む高濃度の鉄耐性機構の全容を理解することを目的として、現在、100 mM FeSO4添加後0, 1, 3, 6, 24, 48時間後のRNAのサンプリングを用いてmRNA-seq解析を行っている。発表では、mRNA-seqの結果もあわせて、G. sulphurariaにおける高濃度鉄耐性機構についてディスカッションを行いたい。
参考文献
1. Schönknecht et al., Science 339, 1207–1210 (2013).
2. Baker et al., Appl. Environ. Microbiol. 70, 6264–6271 (2004).
3. Yoshimura et al., Soil Sci. Plant Nutr. 45, 721–724 (1999).
4. Nagasaka et al., BioMetals 16, 465–470 (2003).