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[G01-P01] ハザードマップの限界:土砂災害警戒区域の場合-明治31年9月 八ヶ岳南麓の集落を襲った土石流災害を例にして
キーワード:ハザードマップ、土砂災害、災害歴史資料
土砂災害警戒区域や浸水想定区域を記載したハザードマップは、住民にとって非常に大切な安全のための情報源である。土砂災害には、「急傾斜地の崩壊」による土砂災害警戒区域(および同特別警戒区域)と土石流による土砂災害警戒区域(および同特別警戒区域)の指定がある。ここで言う急傾斜地とは斜度30°以上の傾斜地を指すが、各傾斜地の上端から10m以内の平地、ならびに傾斜地の下端から50m以内の平地も指定警戒区域に含まれる(土砂災害防止法施行令)。ただし、指定は「急傾斜地の崩壊が発生した場合に、住民等の生命又は身体に危害が生じるおそれがあると認められる土地の区域」に対して行われる(土砂災害防止法)。従って、斜面崩壊が起きても人的被害が生じない山奥の急斜面は指定されない。ところが、山岳部で豪雨が長時間続いているときに斜面崩壊が発生すると、発生した土石流が大量の水とともに土砂災害警戒区域として想定されていない範囲にまで及んで、大災害をもたらすことがある。このような豪雨と斜面崩壊が重なるケースは、現在のハザードマップでは想定されていないため、住民はそれぞれ居住地域の過去の大災害を把握して対処するしかない。
本発表では、そのような地区の例として、かつて八ヶ岳南麓で発生した土石流災害の一つを取り上げる。1898年9月7日午前1時30分ごろ台風がもたらした豪雨のため、八ヶ岳南麓で土石流が発生し、山梨県北巨摩郡大泉村谷戸で57人が死亡、51人が負傷する災害が発生した。筆者は、明治時代に編纂され宮内庁にアーカイブされていた「暴風雨被害取調表」、ならびに法務局に保管されている土地台帳の記録を基に、被害家屋の所在を調査した。その結果、死傷者を出した家屋のほとんどが、集落を流れる農業用水路に沿って立地していたことが分かった。さらに、被災地域についてのHyper KANAKOシステムを用いた土石流シミュレーションの結果と被害家屋の分布を比較した。その結果、集落中の特定の家屋群に犠牲者が集中的に発生した主要な原因の一つとして、被災地域の微地形の影響が挙げられることを見出した。
著者は、この歴史的災害についての調査結果をもとに、山岳部の斜面崩壊によって発生した土石流が、現在のハザードマップに描かれている警戒区域を越えて、家屋の蝟集する地区にまで及び得ること、ならびに災害とは結びつけて考えられにくい普段の生活域にある微地形が、甚大な被害の原因となる可能性があることを指摘する。これらの知見は、ハザードマップの表面的な解説だけでは、防災教育になり得ないだけではなく、かえって住民に危険な安心感を植え付けてしまいかねないことを示唆している。
本発表では、そのような地区の例として、かつて八ヶ岳南麓で発生した土石流災害の一つを取り上げる。1898年9月7日午前1時30分ごろ台風がもたらした豪雨のため、八ヶ岳南麓で土石流が発生し、山梨県北巨摩郡大泉村谷戸で57人が死亡、51人が負傷する災害が発生した。筆者は、明治時代に編纂され宮内庁にアーカイブされていた「暴風雨被害取調表」、ならびに法務局に保管されている土地台帳の記録を基に、被害家屋の所在を調査した。その結果、死傷者を出した家屋のほとんどが、集落を流れる農業用水路に沿って立地していたことが分かった。さらに、被災地域についてのHyper KANAKOシステムを用いた土石流シミュレーションの結果と被害家屋の分布を比較した。その結果、集落中の特定の家屋群に犠牲者が集中的に発生した主要な原因の一つとして、被災地域の微地形の影響が挙げられることを見出した。
著者は、この歴史的災害についての調査結果をもとに、山岳部の斜面崩壊によって発生した土石流が、現在のハザードマップに描かれている警戒区域を越えて、家屋の蝟集する地区にまで及び得ること、ならびに災害とは結びつけて考えられにくい普段の生活域にある微地形が、甚大な被害の原因となる可能性があることを指摘する。これらの知見は、ハザードマップの表面的な解説だけでは、防災教育になり得ないだけではなく、かえって住民に危険な安心感を植え付けてしまいかねないことを示唆している。