日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

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[G-02] 地球惑星科学のアウトリーチ

2021年6月6日(日) 09:00 〜 10:30 Ch.03 (Zoom会場03)

コンビーナ:小森 次郎(帝京平成大学)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、塚田 健(平塚市博物館)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)、座長:塚田 健(平塚市博物館)、小森 次郎(帝京平成大学)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)

10:00 〜 10:15

[G02-03] GigaPanによる露頭の拡縮自在な高解像度画像とライブ映像を活用した地質露頭探究の教育実践の試み

*川村 教一1、澤口 隆2、小森 次郎3 (1.兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科、2.東洋大学、3.帝京平成大学)

キーワード:ギガパン、地質、安田ジオサイト、生田緑地、中学生、高校生

はじめに

筆者らは露頭の高解像度画像を自由に拡大・縮小して閲覧できるウェブページを試作し、中学生・高校生向けのオンライン地層観察実習を試行した.ウェブページの主要コンテンツである高解像度画像はGigaPanと呼ばれる雲台を用いて撮影したものである.発表者のうち澤口による、画像の合成とウェブページの制作に関しては、本大会の別の発表(川村・澤口、「GigaPanによる拡縮自在な高解像度画像を活用したバーチャル野外探究の開発:オンラインジオツアーのための基盤構築」、ジオパークセッション)の発表要旨を参照いただきたい.使用した露頭の画像は、秋田県の男鹿半島-大潟ジオパークの安田ジオサイト(更新統鮪川層など分布)で澤口が撮影した.



調査方法

オンライン授業を希望する中学生・高校生計9名に対し、ビデオ会議システムZOOMを用いて授業を実施した.実習を始める前に地層や岩石の観察についてアンケート調査を行ったところ、理科の授業で観察を行ったことのある生徒はおらず、授業以外で教員の指導で地層や岩石観察を経験したことがある生徒は2名のみで、多くの生徒が観察を実地に行ったことがなかった.また「日本海沿いの海岸のがけ」にどのような地質がみられると想像するかイメージ図を描いてもらったところ、全員が層状の構造を描き、これらは地層を指していると思われる.



授業実践

授業は前半・後半から構成され、前半はGigaPan画像を用いた観察実習(約40分)、後半は講師が露頭から映像の提示と観察、解説を行った(約50分).事後指導として授業後に電子メールにより、個々の生徒に対して授業前半の作品の評価と今後の学習の指針を伝えた.

前半の観察実習では、用意したウェブページ中の画像を閲覧させ、画像中の地質を観察、スケッチを主とした記録を取らせた.実習時間は約30分である.実習中、質問があれば受け付けることを伝えたが、質問はなかった.

スケッチなどはスマートフォンなどで作品を撮影させ、電子メールにより講師あてに送信させた.講師(川村)が授業を実施した場所のWiFi環境では通信速度が十分ではなかったようで、送信された生徒のスケッチ画像のダウンロードに時間を要した。このため、生徒作品の概要(同斜構造、不整合面など)について口頭で伝えるにとどまり、生徒作品を共有するには至らなかった.講評では、高解像度画像を示しながら、砕屑岩(砂岩と礫岩、亜炭)、火山砕屑岩(凝灰岩)、不整合がみられる部分を示した.

授業後半は、発表者のうち小森が講師となり、神奈川県川崎市の生田緑地内の露頭に見られる更新統上総層群飯室層、おし沼砂礫層と関東ローム層の境界面(不整合面)を見出させる実習を行った.この実習では小森が下位から順に岩相の特徴をiPadのカメラで写しながら解説し、露頭のスケッチを取らせた.



成果

生徒の学習記録が得られたのは前半の授業であるので、この点について成果の例を述べる.

ある生徒(中学校3年生)は、観察記録(化石の存在、堆積構造、火山灰層の可能性、有機物を含む地層の可能性)だけでなく、これらについて探究を深めるための調査方法(化石の同定とその結果に基づいた年代推定、貝類化石の埋没姿勢による地層の上下判定、地層構成物の洗浄と鉱物粒子の観察、放射性炭素年代測定の提案)を記述し、画像から各種の地質事象を見出しただけではなく、探究的なレポートとして完成させることができた.約30分でこのようなレポートを作成できた生徒は、地学に関する知識を持っていて、それを観察内容に適用できるものを選び出して文章表現できたものと思われる.思考力・判断力・表現力等を発揮させる教材として用いることができた.



展望

アウトリーチを広く展開する視点からみると、本実践では北海道、関東、近畿、九州地方在住の生徒の参加があり、全国展開が可能であることが分かった.オンライン実習では地質に触れたり、試料を採取したりということは不可能であるが、安全に、遠隔地の露頭を観察できるというのは極めて大きなメリットである.開発したウェブサイトの改善に関しては、観察で得られる情報を増やすためには解像度をより高めた画像を提示する、画像では表現しきれない補足情報を得られるようにするなどの工夫が考えられる.今後実践を重ねて得られた生徒の反応や学習成果の分析をもとに、学校の教室から遠隔地の地層観察ができるように展開できたらと願っている.そのためには、学校における情報通信ネットワークの環境整備や指導法の開発が必要だろう.