日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] 小・中・高等学校,大学の地球惑星科学教育

2021年6月6日(日) 15:30 〜 17:00 Ch.03 (Zoom会場03)

コンビーナ:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター)、座長:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター)

16:00 〜 16:15

[G03-09] 教室で行う薄片製作レシピVer3.0 -3Dプリンタを用いて−

*岡本 義雄1 (1.大阪教育大学(非常勤))

キーワード:岩石薄片、切断機、研磨機、偏光ユニット、地学教育

筆者はこれまで,学校における岩石薄片作成と観察のツールを安価に製作する手法を開発してきた.今回は普及が著しい3Dプリンタをツールの基幹部分の製作に用いて,熟練した機械工作スキルが必要であった従来手法を簡略化し,かつ低コストで贖える手法を新たに開発した.今回も基本ツールは以前と同じ.1)ベンチグラインダーを改良した岩石切断機,2)台所用包丁研磨機を活用した岩石研磨機.観察用として,3)汎用双眼実体顕微鏡(教室提示用として安価なUSB顕微鏡)+自作偏光ユニットを使用した.

今回の主な改良点として,まず3Dプリンタ(Creality Ender3Pro,約25000円〜32000円)により次の部品を作り直した.1)切断機で,従来小型旋盤で製作したブレードをモータ軸に固定するアーバー(治具).2)研磨機のダイヤモンド砥石を固定するための,アーバー(治具).3)観察用の偏光ユニットでアクリル厚板製であった台座部分.の3点.同時にUSB顕微鏡用のLED下部照明も改良した.

3Dプリンタ製作に置換したことのメリットは,修練が必要な機械工作技術や高価な機械が不要になること.製作に用いるCAD製図データは自由にネット上で配布でき,誰でも安価に製作が可能になる点が上げられる.さらにこの種の機械パーツとして推奨されている,力がかかる場所や水に強いナイロン,PET樹脂などを使わずに,汎用で簡単に入手でき,印刷時のパラメータの範囲が広い,PLA樹脂を用いた点にある.PLAについては耐久性などをテストしている段階であるが,現在のところ目立った問題は出ていない.

また,今回さらなる改良点として,包丁研ぎ機を切断機として兼用する試みを始めている.これは岩石切断機の基にした,ベンチグラインダーが持つ根本的な弱点;すなわち防水性が不十分なモーター軸に水が浸透し,やがてベアリングが錆び,固着して使用不可能になるという欠陥;を考慮したためである.このため,包丁研ぎ機のモーター軸にねじ込み,切断機用の薄いダイヤモンド刃を装着する治具を,3Dプリンタで製作する.3D CADソフト(Autodesk Fusion360)には逆ネジ製作機能があるが,印刷時の熱膨張により,ネジ穴が潰れやすいので,少しだけタップを用いた手作業で修正する.構造上,刃と台座との間隙が狭いため,切断は小さなサンプルに限られる.さらにモーターのトルクや回転速度が小さいため,やや時間がかかるものの,薄片用の小さなチップであれば切り出すことが,十分可能である.またこの機械は,上記のように回転速度およびトルクが小さいため,生徒の使用でも危険度が低くなる.防水性も至って良好である.ダイヤモンド刃も安価な150mmの薄い(0.5mm厚,中国通販で送料込み400円程度)ものが使える.それほど多量の薄片を製作しない,学校の地学クラブ活動などでの使用では十分だと考えている.

薄片製作についてはここ数年来,かなり経験を積み,それに基づき現行の薄片製作過程のアップデートを計っている.汎用の製品を使用し,特殊な工作,特殊な技術を省くという基本方針に沿っての改良を貫くためである.予算の少ない学校の地学教室や地学クラブ,あるいは予算の少ない諸外国の教育現場などでも使用可能なように,ノウハウを含めて詳細な薄片製作技術サイトを個人Webサイトで日本語,英語の併用で公開している.筆者がVisiting Teacherとして地球科学を教えている,タイ王国の科学高校KVISにおいては,今年2月教員向け科学教育オンラインイベントで,この技術の詳細な紹介を行った.