日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG23] 原子力と地球惑星科学

2021年6月5日(土) 09:00 〜 10:30 Ch.17 (Zoom会場17)

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、長谷川 琢磨(一般財団法人 電力中央研究所)、座長:長谷川 琢磨(一般財団法人 電力中央研究所)

09:00 〜 09:15

[HCG23-01] ウラン資源の長期供給可能性に関する最近の動向

*笹尾 英嗣1 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

キーワード:ウラン資源

原子力を安定に利用するためには,核燃料の原料であるウランの供給安定性が求められる。ウラン資源に関しては,国際機関や各国の政府機関による報告が定期的になされている。例えば,OECD/NEA(経済協力開発機構原子力機関)とIAEA(国際原子力機関)は共同で各国からの報告に基づいて,2年ごとにUraniumという報告書(通称レッドブック)をまとめている(最新版は2020年版で,2020年12月に出版された;OECD/NEA-IAEA, 2020)。

本報告では,レッドブックなどに基づいて,ウラン供給に関する最新のトピックスを,主に地質学的な観点から報告する。

レッドブック2020年版によれば,260米ドル/1kgU(100米ドル/ポンドU3O8)以下のコストで回収できる「既知資源」(確認資源と推定資源の合計)は,全世界で約807万トンUとされる。2019年1月1日時点の年間ウラン必要量は59,200トンUと見積もられており,現時点で約135年分のウランが発見されていることになる。なお,この年数はウラン必要量(と確認されている資源量)に応じて変化する。例えば,レッドブック2018年版では約130年分,2016年版では約135年分であった。これらのレッドブック発行時点でのウラン資源量は約799万トンと764百万トン,必要量は年間62,825トンと56,600トンとされていた。なお,2040年の年間ウラン必要量は56,640~100,225トンU/年と見込まれており,既知資源によってウランを供給できる年数は必要量に応じて変化(減少)することに注意が必要である。

新型コロナウイルス感染症はウラン供給にも影響を及ぼした。カナダでは,シガーレイク鉱山で操業が一時停止され,それに合わせてマックリーンレイク製錬所の操業も停止した。また,カザフスタン,オーストラリア,ナミビア等では従業員の帰休等によって生産量が減少したとされる。

ウラン鉱山に関するトピックスとして,日本企業が参画した鉱山での生産終了が挙げられる。このうち,オーストラリアのレンジャー鉱山では2021年1月8日に生産が終了した。レンジャー鉱山は,ウラン資源が残存しており,当初は残存資源の採掘が計画されたが,同鉱山は先住民居住区内にあり,ウラン生産の継続に対して先住民の同意が得られなかったため,閉山することになった。なお,レンジャー鉱山の近隣にはジャビルカ鉱床(約120,000tU)があるが,先住民の許可が得られず,これも採掘できない。

オーストラリアでは,新規鉱山開発に向けてHoneymoon 鉱床,Kintyre 鉱床,Yeelirrie鉱床,Lake Way鉱床,Mulga Rock鉱床など,いくつかの既知鉱床の開発計画が進められている。このうち,西オーストラリア州のMulga Rock鉱床(可採鉱量はレッドブックによると約29,000tUとされる)はかつて動力炉・核燃料開発事業団によって発見された鉱床で,高採掘コスト等の問題で権益が放棄されたが,その後,豪州企業によって取得された。

カナダでは,世界最大のウラン鉱床地帯のであるサスカチェワン州,アサバスカ地域のWheeler Riverプロジェクトで鉱山開発計画が進行している。この計画はPhoenix鉱床(約26,900 tU)において,不整合関連型鉱床を対象としたIn-situ recovery(ISR)採掘法が世界で初めて適用される見込みである。

アサバスカ地域に分布するウラン鉱床は不整合関連型鉱床に分類されるもので,鉱床は先カンブリア紀の堆積岩と基盤岩との不整合付近あるいは基盤岩中に存在し,一般には岩石が硬いため,発破や機械を用いた坑内あるいは露天採掘が行われてきた。ISRは一般には不透水性層(泥岩層など)に挟まれた透水性の良い砂岩層中に胚胎する砂岩型ウラン鉱床で用いられる。Phoenix鉱床は透水性の悪い基盤岩と透水性の比較的良い砂岩層との不整合直情に位置する。一方で,砂岩型鉱床と異なり,不透水性層を欠く砂岩層中にあるため,鉱床周囲に「凍土壁」を設け,約300本のボーリング孔を掘削し,薬液の注入,回収,モニタリングを行う計画とされている。鉱床部の透水性は砂岩型鉱床に比べると低いため,シェールオイルで用いられる岩盤破砕を行い,薬液と鉱床の接触部を多くする。また,砂岩型鉱床に比べてPhoenixは高品位(19.1% U3O8)のため,薬液からウランを直接沈殿させ,薬液を再利用する(循環システムが構築される)とされ,比較的低コストで環境負荷が小さいという特徴を有する。



文献

OECD/NEA-IAEA, 2020, Uranium 2020: Resources, Production and Demand.