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[HCG23-P04] 水みち割れ目周辺の水理地質構造および物質移行モデルの構築
キーワード:地層処分、水理地質構造、水みち割れ目、土岐花崗岩、瑞浪超深地層研究所、物質移行モデル
高レベル放射性廃棄物の地層処分において花崗岩などの結晶質岩では、地下水が物質移行の主要な媒体となり,岩盤中の割れ目内を動水勾配にしたがって流動するとともに、地下水が運ぶ物質は割れ目からマトリクスの微細な間隙へ長い時間をかけて拡散・収着し、その移行は遅延すると考えられている。岩盤が構造運動や熱水変質を被ると、岩石組織の破砕や2次鉱物の生成により間隙構造は変化し、地下水の流れや物質移行特性に影響する。よって岩盤中の割れ目の水理・地質学的な連続性や割れ目周辺マトリクスにおける間隙特性および物質移行特性を現場調査や室内試験により把握し、それらの形成過程(地史)を考慮した水理地質構造モデルを構築すること、さらに得られた物性値から地下水流動・核種移行解析のための「場」としての物質移行モデルおよび物質移行パラメータに反映することは重要である。電力中央研究所では、日本国内の亀裂性岩盤における水みち割れ目の間隙構造推定技術の有効性評価を目的として、(国研)日本原子力研究開発機構の瑞浪超深地層研究所に分布する土岐花崗岩を対象とした水みち割れ目の調査手法の高度化に取り組んできた。本報では、瑞浪超深地層研究所深度300mボーリング横坑西側岩盤における水みち割れ目(複数のボーリング孔間において地質学的特徴が連続的に認められ、かつ水理試験により比較的高い透水量係数が計測された割れ目)を対象に行われた原位置レジン注入試験により得られた微細間隙の幾何学形状計測や水みち割れ目周辺マトリクス試料を用いた拡散・収着バッチ試験の結果に基づき、核種の拡散・収着挙動を考慮した亀裂性岩盤中の地下水流動・核種移行解析のための水理地質構造の概念モデルや物質移行モデルを提案し、かつ構築したモデルに導入する物質移行パラメータを設定した。
深度300mボーリング横坑西側岩盤における水理地質調査の結果から、西側岩盤では連続性のよい複数のNW系高傾斜割れ目が低傾斜割れ目を介し透水性の高い割れ目帯となって水みちを形成していると考えられる(濱田,2019)。これらの水みちを対象に実施された原位置レジン注入試験でレジンの充填が確認された主要な割れ目は、NW系高傾斜割れ目であり、その特徴はカタクラスティックな脈状組織と平行に割れ目が開口しており、ところどころ細粒な方解石が介在していた。これらのNW系高傾斜割れ目と交差する低傾斜割れ目にもレジンが充填し、自形の方解石が発達する晶洞を有するものもあった。EPMAによる組成分析の結果から、カタクラスティックな組織を構成する鉱物は花崗岩の造岩鉱物が細粒化したものであり、2次鉱物はあまり含まれていなかった。このことからNW系高傾斜割れ目は破砕作用により造岩鉱物が細粒化し、その後の構造運動により,カタクラスティックな組織の面が弱線となって破壊し、現在の開口部が形成されたと考えられる。低傾斜割れ目はこの深度において普遍的に分布しており、割れ目が作る隙間に発達する自形方解石結晶はC軸方向に長軸をもつことから淡水起源であると考えられる(Folk,1974)。このことから低傾斜割れ目は花崗岩の上昇時の除荷によって形成されたのち、地表水の侵入により方解石が形成され、割れ目を充填したと考えられる。
上記で述べた水みち割れ目の特徴に基づき、亀裂性岩盤中の主に単一割れ目周辺の地下水流動・核種移行解析のための物質移行モデルを提案する。コア試料の肉眼観察および偏光顕微鏡観察結果より、水みち割れ目面(0mm)から30mmまでの範囲に過去のせん断活動や熱水変質を被った痕跡が認められた。室内試験(拡散試験,鉱物割合に着目した収着バッチ試験など)の結果より、この範囲内では概ね割れ目面近傍ほど間隙率が大きく、割れ目面から遠ざかるにつれて間隙率は小さくなり、実効拡散係数にも同様の傾向が認められた。また分配係数については、各々の水みち割れ目周辺マトリクスに含有される2次鉱物、特にセリサイトの量に応じて値が変化しているように見えた。このことから提案する概念モデルは、割れ目面から10mmの幅毎に、割れ目面から30mmまでの範囲に対してそれぞれ室内試験より得られた物質移行パラメータを設定し、割れ目面から30mm以上離れた領域については、参考値として健岩部の値を導入することが妥当だと考えられる。
一方、同ボーリング横坑の東側岩盤では各孔の湧水量の多かった水みち割れ目の間を多数の低傾斜割れ目が交差することで、西側岩盤と比べて広範囲にわたってネットワーク状に水みちを形成している可能性がある。また南東方向に発達する主立坑断層(鶴田ほか,2013)の活動の影響を受け、より東側の領域では割れ目の分布が増加しているため、今後、ブロックスケールでの物質移行モデルの適用が妥当だと考えられる。
本研究の内容は、経済産業省資源エネルギー庁より(一財)電力中央研究所が受託した「平成31年度および令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(岩盤中地下水流動評価技術高度化開発)」の成果の一部である。また、(国研)日本原子力研究開発機構との共同研究の一部として実施した。
(参考文献)
濱田 藍, 2019. 土岐花崗岩中の水みち割れ目とその周辺マトリクスの微細間隙構造, 電力中央研究所報告, 研究報告:N18004.
Folk, R.L., 1974. The natural history of crystalline calcium carbonate: effect of magnesium content and salinity. J. Sed. Petrol. 44, 40–53.
鶴田ほか, 2013. 超深地層研究所計画 地質・地質構造に関する調査研究-深度300m から500m までの地質・地質構造-, JAEA-Research 2013-014.
深度300mボーリング横坑西側岩盤における水理地質調査の結果から、西側岩盤では連続性のよい複数のNW系高傾斜割れ目が低傾斜割れ目を介し透水性の高い割れ目帯となって水みちを形成していると考えられる(濱田,2019)。これらの水みちを対象に実施された原位置レジン注入試験でレジンの充填が確認された主要な割れ目は、NW系高傾斜割れ目であり、その特徴はカタクラスティックな脈状組織と平行に割れ目が開口しており、ところどころ細粒な方解石が介在していた。これらのNW系高傾斜割れ目と交差する低傾斜割れ目にもレジンが充填し、自形の方解石が発達する晶洞を有するものもあった。EPMAによる組成分析の結果から、カタクラスティックな組織を構成する鉱物は花崗岩の造岩鉱物が細粒化したものであり、2次鉱物はあまり含まれていなかった。このことからNW系高傾斜割れ目は破砕作用により造岩鉱物が細粒化し、その後の構造運動により,カタクラスティックな組織の面が弱線となって破壊し、現在の開口部が形成されたと考えられる。低傾斜割れ目はこの深度において普遍的に分布しており、割れ目が作る隙間に発達する自形方解石結晶はC軸方向に長軸をもつことから淡水起源であると考えられる(Folk,1974)。このことから低傾斜割れ目は花崗岩の上昇時の除荷によって形成されたのち、地表水の侵入により方解石が形成され、割れ目を充填したと考えられる。
上記で述べた水みち割れ目の特徴に基づき、亀裂性岩盤中の主に単一割れ目周辺の地下水流動・核種移行解析のための物質移行モデルを提案する。コア試料の肉眼観察および偏光顕微鏡観察結果より、水みち割れ目面(0mm)から30mmまでの範囲に過去のせん断活動や熱水変質を被った痕跡が認められた。室内試験(拡散試験,鉱物割合に着目した収着バッチ試験など)の結果より、この範囲内では概ね割れ目面近傍ほど間隙率が大きく、割れ目面から遠ざかるにつれて間隙率は小さくなり、実効拡散係数にも同様の傾向が認められた。また分配係数については、各々の水みち割れ目周辺マトリクスに含有される2次鉱物、特にセリサイトの量に応じて値が変化しているように見えた。このことから提案する概念モデルは、割れ目面から10mmの幅毎に、割れ目面から30mmまでの範囲に対してそれぞれ室内試験より得られた物質移行パラメータを設定し、割れ目面から30mm以上離れた領域については、参考値として健岩部の値を導入することが妥当だと考えられる。
一方、同ボーリング横坑の東側岩盤では各孔の湧水量の多かった水みち割れ目の間を多数の低傾斜割れ目が交差することで、西側岩盤と比べて広範囲にわたってネットワーク状に水みちを形成している可能性がある。また南東方向に発達する主立坑断層(鶴田ほか,2013)の活動の影響を受け、より東側の領域では割れ目の分布が増加しているため、今後、ブロックスケールでの物質移行モデルの適用が妥当だと考えられる。
本研究の内容は、経済産業省資源エネルギー庁より(一財)電力中央研究所が受託した「平成31年度および令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(岩盤中地下水流動評価技術高度化開発)」の成果の一部である。また、(国研)日本原子力研究開発機構との共同研究の一部として実施した。
(参考文献)
濱田 藍, 2019. 土岐花崗岩中の水みち割れ目とその周辺マトリクスの微細間隙構造, 電力中央研究所報告, 研究報告:N18004.
Folk, R.L., 1974. The natural history of crystalline calcium carbonate: effect of magnesium content and salinity. J. Sed. Petrol. 44, 40–53.
鶴田ほか, 2013. 超深地層研究所計画 地質・地質構造に関する調査研究-深度300m から500m までの地質・地質構造-, JAEA-Research 2013-014.