日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG26] 気候変動への適応とその社会実装

2021年6月6日(日) 10:45 〜 12:15 Ch.15 (Zoom会場15)

コンビーナ:山野 博哉(国立環境研究所)、石川 洋一(海洋研究開発機構)、大楽 浩司(筑波大学)、田村 誠(茨城大学地球・地域環境共創機構)、座長:山野 博哉(国立環境研究所)、石川 洋一(海洋研究開発機構)、大楽 浩司(筑波大学)、田村 誠(茨城大学地球・地域環境共創機構)

10:45 〜 11:00

[HCG26-01] 環礁国土の海面上昇に対する復元力強化

★招待講演

*茅根 創1、藤田 昌史2、藤田 乃里1、細野 隆史3、井手 陽一4、桑原 祐二2、松舘 文子13、三村  悟5、中村 修子6、大中  晋7、佐藤 大作8、武田 智子9、山田 浩次10、山口 徹11、山野 博哉12、横木 裕宗2 (1.東京大学、2.茨城大学、3.海洋研究開発機構、4.海洋プランニング(株)、5.国際協力機構、6.笹川平和財団海洋政策研、7.日本工営(株)、8.摂南大、9.地球環境戦略研、10.日本建設情報総合センター、11.慶應大、12.国立環境研、13.はーとBiz)

キーワード:環礁州島、海面上昇、復元力、ツバル

地球温暖化に伴って今世紀中に0.3-1.1m,3世紀後には最悪のシナリオでは5mを越える海面上昇が予想されている.環礁は,標高1−4mの低平な州島からなり,海面上昇によって台風や高潮などの災害が激甚化し,水没する危機にある.地球上にはおよそ500の環礁があり,うち400ほどが太平洋に分布する.太平洋のツバル,キリバス,マーシャル諸島共和国,インド洋のモルジブは,国土のすべてが環礁からなる環礁国である.これらの国々は,自らはほとんど排出しないCO2による温暖化で危機的な状況にあることから,他の小島嶼国と連合して温暖化抑制と,海面上昇に対する適応策の支援を,国際社会に訴えている(小島嶼国連合:Alliance of Small Island States).こうした訴えに応えて,気候変動に対する適応策のために緑の気候基金 (GCF: Green Climate Fund) など国際支援が計画されている.環礁国は,海面上昇対策として,護岸や埋め立てによる嵩上げを求めている.

環礁州島は,サンゴが造ったサンゴ礁の土台の上に,サンゴ礫や有孔虫やハリメダの砂が打ち上げられて形成された,生物が造った島からなる.後氷期の海面上昇が安定した4000年前にサンゴ礁の土台が作られ,2000年前以降の1−2mの海面低下に伴って州島が造られ,人々の居住が始まった(Yamaguchi et al., 2007; Kayanne et al., 2011).マーシャル諸島共和国やツバルなどの環礁国においては,首都への人口の集中によって,環礁州島の中でもとくに脆弱な低湿地やストームリッジに居住域が拡大している(Yamano et al., 2007).さらに増加する人口の生活排水によって海岸に還元的な環境が広がり,サンゴ礁生態系が劣化してサンゴ群集が藻場に代わってしまい,海面上昇に対する国土の復元力が喪われている(Fujita et al., 2013; Nakamura et al., 2020).コーズウェイの建設や航路の浚渫,桟橋や積み石による直立護岸も,砂の移動と堆積を阻害している.

 環礁の問題は,海面上昇による水没という単純な問題でなく,脆弱な土地への居住域の拡大や,環境破壊による生態系の劣化や人為的な海岸構造物による国土の修復力が衰えていることによる複合的な問題である.将来の海面上昇に対して,環礁の国土を維持するためには,地球温暖化と海面上昇を可能な限り抑制するとともに,生態系の修復によって復元力を回復することが求められる.生態系の修復は,環礁国の基盤的な環境改善にも寄与する.こうした視点から,ツバルでは2015年にJICAの技術協力によって首都のフナフチ環礁フォンガファレ島において養浜を実施した(Onaka et al., 2017).養浜は,砂浜を回復する,島の自然の砂の堆積過程を阻害することがないグリーンインフラの実践例である.

しかしながらツバルではその後, GCFの支援によって大規模な埋め立てを計画 している.これは投入した土砂の流出を防ぐために,フィジーから運んできた捨石による護岸で囲う工法で,これにより新たに造成された陸地は施設構築等の陸域としての利用が予定されている.狭小な島の拡大にもつながる,短期的に目に見える対策を求めるツバルの希望は理解できる.グレイインフラもまだ十分でない小島嶼国に,理想としてのグリーンインフラを強要することはできない.しかし,外力に対する埋め立て地の安定性や,埋め立てが長期的には環境悪化につながり持続可能ではなく,環礁の島の形成を阻害してしまう危険は評価しておく必要がある.長期的な視野のもとでグリーンインフラと護岸・埋め立てなどのグレイインフラのベストミックスを適用することは,現地の政府と住民の要望があってのことであり,そのためには現地の理解を得るためのアプローチが必須である.