日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG26] 気候変動への適応とその社会実装

2021年6月6日(日) 10:45 〜 12:15 Ch.15 (Zoom会場15)

コンビーナ:山野 博哉(国立環境研究所)、石川 洋一(海洋研究開発機構)、大楽 浩司(筑波大学)、田村 誠(茨城大学地球・地域環境共創機構)、座長:山野 博哉(国立環境研究所)、石川 洋一(海洋研究開発機構)、大楽 浩司(筑波大学)、田村 誠(茨城大学地球・地域環境共創機構)

12:00 〜 12:15

[HCG26-06] 自治体と職員の防災力向上のための防災訓練ワークショップについて:気候変動適応策たる防災政策の社会実装の一環として

*吉村 耕平1,2、那須 清吾2、堀内 深玄3 (1.日本工営、2.高知工科大学、3.高知市役所)

キーワード:気候変動、適応策、地域防災、氾濫解析、河川工学、災害図上訓練

気候変動適応策としての防災政策は重要であり、国も水防法の改正などで対策を進めている。そして、実際に市民を守る防災政策を実施する自治体は、過去の発生した地域最大規模の降雨への備えを進めてるように定められた。しかし、これまでの河川防災においては、統計的に定められた長期的な計画で指定される洪水規模へのハード対策どころか、戦後最大などより小さな暫定基準の洪水へのハード対策も不十分であった。なおさら、気候変動によって拡大する洪水へのハード対策は困難である。そのため事前のハザードマップなどによる情報提供や、災害時の避難誘導などの、行政主導のソフト対策がメインとなる。行政は気候変動による災害規模の拡大と変容に対して、常に迅速で的確な対応をすることが求められる。



自治体にとっては、これまでよりも大きく想定が変化する洪水への対応を迫られ、高齢者などの災害弱者を含め生命を救う義務を課せられている。しかし、防災部局が気候変動の影響を考慮した専門的なシミュレーションを自ら行うことは困難であり、予め作成された資料に基づき手続きなどを確認する図上訓練などが主であった。



高知工科大学と高知市役所は、SI-CATの一環で協力体制を構築しており、高知市防災政策課が行う防災ワーキングショップを協力して実施した。



高知市では、防災政策課を中心としてロールプレイング方式の災害対策本部図上訓練を実施していたが、高知工科大学が提供する氾濫解析のデータを利用し、より実戦的な対応力の向上を図る訓練を行った。市役所の職員は、防災部局に長期に勤務するのではなく、一定のサイクルで各部局をローテーションで異動する。そのため、職員は多様な知識と経験を得ることが出来るが、防災部局での長期的な知識の蓄積は難しい。従来の図上訓練は、防災部局を中心に災害対策本部のオペレーションを転入してきた職員とともに確認するのも目的であった。



現状では被害が報告されてから、職員は対策を検討し実施する。そのため、被害発生から対策が実施されて効果を発揮するまでにはタイムラグがあった。もし、事前に被害予測を共有しており、前倒しで対策を実施すればタイムラグは小さくなる。さらに破堤などの河川災害と、それに伴う浸水予測がデータセットとして閲覧できれば、被害報告に先駆けて長期的な市街地の被害拡大を考慮した市民への避難勧告、洪水後の復旧活動などをスムーズに行うことが出来る。この流れが、災害対応の目標となる理想像であることを、高知工科大学と高知市役所との間のディスカッションで見いだすことが出来た。



対象となる高知市は、市街地中心部が、山地と深く入り込んだ浦戸湾に囲まれている。太平洋から送り込まれた水蒸気は山地に当たって強雨を発生させる。また台風によって、浦戸湾では高潮が発生する。線状降水帯や遠隔地の台風から送り込まれた水蒸気によって発生した豪雨は、気象学的に予測をするのが困難である。豪雨が発生してから、市街地に洪水が到達するのは数時間程度と短い。そのため、行政は市民の生命を守り、迅速な対応が必要となる。





実施された「高知市災害対策本部ワークショップ訓練」の目的は、「近年の豪雨災害を踏まえて,鏡川氾濫シミュレーションから高知市の被害状況を想像し,大規模水害発生時の災害対策本部の対応を考察して,幹部職員としての災害対応能力の向上を目指すこと」である。また訓練のポイントは「災害発生時の状況から今後の対応すべき事項を推測する」「災害対応の早期検討着手の必要性を理解する。」の2点である。2月に、テストケースとして幹部職員を数グループに分け対象に試行を行った。



最初の数分で近年の豪雨災害を説明し、さらに共通シナリオとして、避難所開設などの行政の対応や、台風などの気象情報と、洪水発生後の浸水状況や避難者数などのデータを提示した。

次に、参加者個人個人が1日目から3日目、1週間後までの対応を書き出した。次にグループごとに対応を整理してまとめるグループワークを行った。そして最終段階では、その成果を相互に発表を行った。



参加者は自らの役割を時間軸の中で体感しながら理解することが出来た。また、これから発生する現象を見越して早期の対応も発想することが出来た。参加した幹部職員は自らの部署で、その経験を広げることが期待される。
今回は浸水の広がりや避難者数をあらかじめ提示したが、今後は気候変動による降雨の変容や洪水規模の拡大を反映させたり、氾濫の広がりや避難者数や災害廃棄物を参加者にとって先が分からない形で出題するなど、発展を予定している。また検討項目の列挙や検証、オペレーション項目の作成など次年度以降も回数を重ねて深化させる予定である。