16:15 〜 16:30
[HCG27-04] 高レベル放射性廃棄物の地層処分場の科学的特性ー北海道寿都町・神恵内村の地質学的特徴からの検討ー
★招待講演
キーワード:科学的特性マップ、高レベル放射性廃棄物、最終処分場、ハイアロクラスタイト
原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場を選ぶ第1段階の「文献調査」に,西南北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村が手を挙げ,昨年11月に経産相が計画を認可した.経産省は2017年に「科学的特性マップ」を公表して文献調査公募の働きかけを強めたが,以下に述べるように,寿都や神恵内のような,地質上明らかに不適地が考慮されておらず,これが科学的検証を欠いた基準であることは明らかだ.
寿都と神恵内を含む周辺の五万分の1地質図幅作成に携わった山岸宏光氏は,当該地域の火山岩類の産状を克明に記載分類し,水冷破砕岩の多様な産状から安山岩質海底火山の復元モデルを提唱し,国内外から広く注目された.一方,これらは多様な産状を示すがゆえに,水冷破砕による亀裂や不均質な岩相境界の割れ目の発達など脆弱性が高く,地層処分地としては致命的な性状なのである.地層処分地の建設は地下300m,広さ数km2という広大な範囲が想定されているが,寿都町周辺において地下施設を作ろうとした場合,対象となる地層は新第三紀後期中新世の泥岩や火山性砕屑岩(火山性堆積岩・水冷破砕岩)である.寿都町北東部には泥岩が分布するが,火山性砕屑岩へと側方変化し限定的である.一方,神恵内村の大部分は,第四紀火山の積丹岳から半径15kmの範囲内で,科学的特性マップで不適地とされており,わずかに適地とされた村内の南端部は,新第三紀中〜後期中新世の火山性砕屑岩が広がる.これは寿都と同様な岩相だが変質作用が進んだ安山岩が多く,地質構造からは日本海海底下にも1,000m以上の深度まで分布する可能性がある.両地域の水冷破砕岩は層相変化に富み,再堆積性の岩相を示すことも多い.さらに多数の岩脈が認められる.このような場所において処分場を建設すれば,地層に亀裂が生じ,割れ目から地下水が浸出し,もし地震が直撃したら,無数の割れ目に沿って地下水とともに放射性核種の浸出は避けられない.西南北海道では,この脆弱な岩相に起因する崩落事故が多発している.1996年に崩落した豊浜トンネル(古平町),翌97年には寿都町の西隣りに接する島牧村の第2白糸トンネルでも大規模な崩落が起きた.これらの崩落の原因は,脆弱な水冷破砕岩に発達する亀裂と地下水の浸透による亀裂の進展であったが,豊浜トンネルの岩盤崩壊面は,鮮新世以降に生じた東西圧縮による広域応力場によって潜在していた割れ目系を母体としていた.
寿都と神恵内には,かつて寿都・潮路(おしょろ)・茂岩(泊村側)などの鉱山が知られている.科学的特性マップでは鉱物資源の範囲は,将来の掘削可能性の観点から好ましくない地域とされているが,仮に鉱山跡地を避けたとしても,両地域はもともと狭小な範囲であるので,その鉱床への影響が危惧される.西南北海道の東側地域の鉱床は,特徴的にヒ素鉱物をともなうことが知られており,掘削にともなう膨大な有害掘削土は,深刻な環境への悪影響が避けられない.現在,旧手稲鉱山周辺を通る北海道新幹線トンネル工事にともない,ヒ素を含む有害掘削土の処分候補地が決まらない事態が生じている.
寿都町は活断層である黒松内低地断層帯の北部に位置しており,地盤変動の激しい場所といえる.この断層帯は,寿都町から長万部町にかけて幅2〜5km,長さ約32km以上の活断層帯であり,北海道内の活断層の中では,活動の可能性がもっとも高い断層とされている.科学的特性マップでは,長さ10km以上の活断層の両側,断層長×0.01以内の場所(黒松内低地断層帯では東西それぞれ約320m)は地層処分場としては好ましくない地域とされているが,2018年の北海道胆振東部地震(M6.7)は,活断層である石狩低地東縁断層帯の東側約20kmで発生した.胆振東部地震と石狩低地東縁断層帯との因果関連は諸説あるが,両者が共通の広域応力場(東西圧縮による逆断層)に起因したことは明らかである.このように,活断層の周辺は,地表に現れていない断層も含め,広い範囲で変動のリスクが高くなっている.このような悪条件にたいする安全性は,文献調査をしてもわからない.概要調査に進んでも,断層の活動の痕跡の有無を明らかにできる保証はない.さらには精密調査段階で地下調査施設を造って地下水の流動特性や岩石の物理・化学特性を調べても無理である.
「核のゴミ」は,その有害度が天然ウランと同程度になるまでに10万年かかる.過去10万年の地質は明らかにできても,今後10万年の地殻の挙動を予測し地震の影響を受けない場所を選定するのは,今の科学技術の水準では不可能である.日本学術会議(2012年9月)の提言にしたがい,核のゴミはまず地上で暫定保管し,研究の進展で安全性を高めた上で,処分方法を決めるべきだ.そしてその決定は市民・識者を含む第三者機関による社会的合意形成が不可欠である.
寿都と神恵内を含む周辺の五万分の1地質図幅作成に携わった山岸宏光氏は,当該地域の火山岩類の産状を克明に記載分類し,水冷破砕岩の多様な産状から安山岩質海底火山の復元モデルを提唱し,国内外から広く注目された.一方,これらは多様な産状を示すがゆえに,水冷破砕による亀裂や不均質な岩相境界の割れ目の発達など脆弱性が高く,地層処分地としては致命的な性状なのである.地層処分地の建設は地下300m,広さ数km2という広大な範囲が想定されているが,寿都町周辺において地下施設を作ろうとした場合,対象となる地層は新第三紀後期中新世の泥岩や火山性砕屑岩(火山性堆積岩・水冷破砕岩)である.寿都町北東部には泥岩が分布するが,火山性砕屑岩へと側方変化し限定的である.一方,神恵内村の大部分は,第四紀火山の積丹岳から半径15kmの範囲内で,科学的特性マップで不適地とされており,わずかに適地とされた村内の南端部は,新第三紀中〜後期中新世の火山性砕屑岩が広がる.これは寿都と同様な岩相だが変質作用が進んだ安山岩が多く,地質構造からは日本海海底下にも1,000m以上の深度まで分布する可能性がある.両地域の水冷破砕岩は層相変化に富み,再堆積性の岩相を示すことも多い.さらに多数の岩脈が認められる.このような場所において処分場を建設すれば,地層に亀裂が生じ,割れ目から地下水が浸出し,もし地震が直撃したら,無数の割れ目に沿って地下水とともに放射性核種の浸出は避けられない.西南北海道では,この脆弱な岩相に起因する崩落事故が多発している.1996年に崩落した豊浜トンネル(古平町),翌97年には寿都町の西隣りに接する島牧村の第2白糸トンネルでも大規模な崩落が起きた.これらの崩落の原因は,脆弱な水冷破砕岩に発達する亀裂と地下水の浸透による亀裂の進展であったが,豊浜トンネルの岩盤崩壊面は,鮮新世以降に生じた東西圧縮による広域応力場によって潜在していた割れ目系を母体としていた.
寿都と神恵内には,かつて寿都・潮路(おしょろ)・茂岩(泊村側)などの鉱山が知られている.科学的特性マップでは鉱物資源の範囲は,将来の掘削可能性の観点から好ましくない地域とされているが,仮に鉱山跡地を避けたとしても,両地域はもともと狭小な範囲であるので,その鉱床への影響が危惧される.西南北海道の東側地域の鉱床は,特徴的にヒ素鉱物をともなうことが知られており,掘削にともなう膨大な有害掘削土は,深刻な環境への悪影響が避けられない.現在,旧手稲鉱山周辺を通る北海道新幹線トンネル工事にともない,ヒ素を含む有害掘削土の処分候補地が決まらない事態が生じている.
寿都町は活断層である黒松内低地断層帯の北部に位置しており,地盤変動の激しい場所といえる.この断層帯は,寿都町から長万部町にかけて幅2〜5km,長さ約32km以上の活断層帯であり,北海道内の活断層の中では,活動の可能性がもっとも高い断層とされている.科学的特性マップでは,長さ10km以上の活断層の両側,断層長×0.01以内の場所(黒松内低地断層帯では東西それぞれ約320m)は地層処分場としては好ましくない地域とされているが,2018年の北海道胆振東部地震(M6.7)は,活断層である石狩低地東縁断層帯の東側約20kmで発生した.胆振東部地震と石狩低地東縁断層帯との因果関連は諸説あるが,両者が共通の広域応力場(東西圧縮による逆断層)に起因したことは明らかである.このように,活断層の周辺は,地表に現れていない断層も含め,広い範囲で変動のリスクが高くなっている.このような悪条件にたいする安全性は,文献調査をしてもわからない.概要調査に進んでも,断層の活動の痕跡の有無を明らかにできる保証はない.さらには精密調査段階で地下調査施設を造って地下水の流動特性や岩石の物理・化学特性を調べても無理である.
「核のゴミ」は,その有害度が天然ウランと同程度になるまでに10万年かかる.過去10万年の地質は明らかにできても,今後10万年の地殻の挙動を予測し地震の影響を受けない場所を選定するのは,今の科学技術の水準では不可能である.日本学術会議(2012年9月)の提言にしたがい,核のゴミはまず地上で暫定保管し,研究の進展で安全性を高めた上で,処分方法を決めるべきだ.そしてその決定は市民・識者を含む第三者機関による社会的合意形成が不可欠である.