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[HCG27-P05] 原子力発電と地球科学をめぐる状況は過去10年で変わったか?
キーワード:地球科学、原子力発電、公共空間、科学者の社会的責任
2011年の東日本大震災から10年が経過した。日本地震学会はこの震災の発生後に対応検討のための臨時委員会を設置し、私はその委員長として議論を取りまとめた。その当時の結論として、地震学コミュニティは、「健全な批判精神を持って研究を取り巻く状況を正確に認識し、学会の内外におけるコミュニケーションを深めることが必要である」との提言を行った(鷺谷, 2012)。その後、この提言を実践する試みの一環として、毎年のJpGU大会において、原子力発電と地球科学の関係について議論するセッションに参画してきた。この10年間の活動を振り返ると、地球科学における研究の進展や他分野との交流による相互理解が進んだ面もある一方、原子力発電の体制側と一般的な地球科学研究者の間の溝は必ずしも埋まっていない。理学的な研究は将来起こり得る災害に言及することは可能だが、その予測は大きな不確実性を有しており、その不確実さの扱いにより現実の対応は大きく異なる。こうした不確実さを踏まえた意志決定のためには、理学、工学、社会科学など多様な背景を持つ専門家が議論し協働する場(公共空間)が必要不可欠と考えられるが、そのような場は依然として実現していない。そうした意味において、2012年の提言は、現在もなお専門家集団が追求すべき方向性を示していると考える。