日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG28] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.09

コンビーナ:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、池田 昌之(東京大学)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)

17:15 〜 18:30

[HCG28-P01] 日本の沖積平野の地形と流域の土砂供給の関係に関する初歩的検討

*小松原 琢1 (1.国立研究開発法人産業技術総合研究所)

キーワード:地形、削剥、堆積、流域、現行地学過程

1.はじめに
 近年,ダムの堆砂状況に関する資料が集積・公開され (たとえば国土交通省水管理国土保全局、202), 河川上流域における土砂生産と下流域における堆積作用の関係を具体的に議論できるようになってきた.発表者は,流域からの土砂供給速度と沖積層の「うつわ」の形状が異なる7つの沖積平野を例として,沖積層の体積と上流域における土砂供給速度より推算される堆積に要した期間 (計算上満砂時間と仮称する) と,沖積平野の地形的特徴(特に河道形態)について,関連を議論できないか検討している.
2. 対象地域
 産総研は007年より海陸境界部の地質体と地質構造の連続性を明らかにすることを目的として「沿岸域の地質・活断層の調査」を行ってきた.この研究対象のうち,沖積平野を伴わない能登半島北西岸周辺を除いた,7地域 (Table 1) を対象として現在検討を進めている.
3. データ
 ここでは長谷川ほか (2005) を国土交通省水管理国土保全局 (2012) により補完して,ダム堆砂から求められる河川上流部の削剥速度 (D) に、沖積平野に流入する河川の全流域から沖積低地を除いた範囲の面積 (山地流域:面積Aw) を乗じて土砂供給速度 (S:Aw×D) を概算した.沖積層の体積 (Va) は,既存資料に示された沖積層の平均層厚 (Ta) に面積 (Aa) を乗じて概算した.得られたデータには,1) 削剥速度はダム堆砂速度より算定した値であり、人為の加わった数十年という短期のデータという性格上、自然状態の平均値より大きい可能性が高い,2) 沖積層の体積は大ざっぱな概算値である (GISを用いた緻密な算定ではない),という問題がある.
4. 結果 
平野ごとのVa、S、計算上満砂時間 (F = Va / S)・現河口から大陸棚外縁までの距離 (陸棚幅) などをTable 1に示す.表から以下の点が読み取られる.①計算上満砂時間が1000年オーダー以下で陸棚幅が狭い相模平野と静岡平野は,ともに網状河道帯 (扇状地) が発達し,蛇行河川帯や分岐河道帯が発達しない.②計算上満砂時間が数千年オーダー,陸棚幅が数10kmである新潟平野・濃尾平野・徳島平野では,網状河道帯・蛇行河道帯・分岐河道帯のいずれも良く発達する.③計算上満砂時間が1万年ないしそれ以上と考えられる勇払平野と福岡平野では網状河道帯・蛇行河道帯は発達しない,という傾向が認められる.
5. 考察
 計算上満砂時間が実際の沖積層の堆積期間 (数千~1万年) と比較して有意に小さい相模平野と静岡平野は、ともに深海に直面し、これらの平野に流入した土砂の多くは深海まで短期間に運ばれている可能性が高い.一方,計算上満砂時間が1万年を上回る勇払平野や福岡平野では,有機砕屑物が沖積層中に多く含まれたり浜堤が発達したりする。本調査は大変粗雑なものであることは間違いない.しかし,山地と平野・海の地形連環を議論できるのではないかと考え,一石を投じてみた.

文献
長谷川・若松・松岡 (2005) 自然災害科学,24,287-301.
国土交通省水管理国土保全局 (2012) 全国のダム堆砂状況について (平成20年度末現在).(http://suigenren.jp/wp-content/uploads/2012/09/H20zenkokutaisade-ta.pdf)