日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG28] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.09

コンビーナ:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、池田 昌之(東京大学)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)

17:15 〜 18:30

[HCG28-P02] 現世洪水堆積物の帯磁率異方性と水理条件の関係について

*立石 良1、木村 一郎1、石川 尚人1 (1.富山大学)

キーワード:帯磁率異方性、現世堆積物、X線CT解析

はじめに:堆積物の粒子配列は,堆積物が堆積したときの水理条件を反映しており,堆積学的な研究が進んでいる.砂粒子の粒子配列の測定方法としては,2次元/3次元での直接測定,薄片の光学的性質による測定,帯磁率測定が挙げられる(横川,1998).このうち帯磁率測定は,その効率の良さから,特に古流向復元において広く用いられているが,水理条件との関係についての研究は進んでいるとは言い難い.筆者らは,堆積物の帯磁率異方性からの水理条件の復元を目的として,水路実験を含めた基礎研究を行っている.その一環として,本研究では,一回の洪水で形成されたと思われる現世の洪水堆積物の観察・記載,代表的なユニットごとの帯磁率測定,X線CT画像を用いた粒子配列の解析を行い,それらの比較に基づいて,帯磁率異方性と古流向および水理条件との関係について考察する.

対象・手法:調査位置は,富山県富山市の中心部を流れる神通川の左岸側,富山大橋東詰橋脚下である.ここで発見した土塁状の現世堆積物の露頭は,高さ1.6m,幅6.3mで,最下部が神通川の水面から約1.5mの高さにあり,流路に向かって15°西に傾く斜面に沿って分布する.この露頭の流路に平行な面を,幅2m,高さ50cmに渡って整形し,観察・記載を行って堆積状況を復元した.また,7cc プラスチックキューブを用いて定方位で試料採取を行い,帯磁率測定,およびX線CT画像撮影と粒子解析を行ってこれらの結果を比較した.帯磁率測定は,AGICO製Kappabridge(KLY-3S)を用いて行った.X線CT画像は,富山県工業技術センター所有のマイクロフォーカスX線CT装置(inspeXio SMX-225CT FPD HR;島津製作所)で撮影した.粒子配列の解析にはimageJとRを使用した.

現地観察の結果:地層は葉理の発達する淘汰の良い砂層からなり,大きく3つのユニットに分けられる.最下部のユニットAは,厚さ20cmの非常に淘汰の良い極細粒砂と細粒砂の細互層(約5mm間隔)からなり,植物片を層状に挟む.この砂層は斜面に沿って傾斜するフォーセット葉理をなす.その上位のユニットBは,ユニットAを削り込む厚さ22cmの淘汰の良い細粒砂からなる.この砂層には,カレントリップルの移動に伴う流路と平行な方向の平板型斜交葉理が認められる.最上部のユニットCは,厚さ18cmで,淘汰の良い細粒砂層からなり,ユニットAと同じく斜面に沿って傾斜するフォーセット葉理をなす.ユニットCには植物片は含まれない.
X線CT画像解析の結果:帯磁率測定を行った試料のX線CT画像から粒子配列の解析を行った.ユニットAの最大軸は左岸および上流方向に15°程度で傾斜するものが卓越し,分散が大きい.ユニットBの最大軸は上流―下流方向に15°程度で傾斜するものが卓越し,分散が最も大きい.ユニットCは左岸方向に15°程度で傾斜するものが卓越し,分散が最も小さい.
帯磁率測定の結果:ユニットA,B,C各3試料の帯磁率測定を行い,異方性の解析を行った.異方性の度合いは約1.03〜1.08でユニットCが最も小さく,異方性の形状は全てOblate寄りであった.異方性の最小軸の方向は各ユニットで良いまとまりを示す.ユニットAでは最小軸はほぼ鉛直で,最大軸はバラつきが小さく,左岸あるいは右岸のごく低角(10°未満)を指す.ユニットBでは最小軸が上流と左岸の間の方向に30°〜44°傾き,最大軸はバラつきが大きく,左岸よりの低角(26°以下)を指す.ユニットCでは最小軸はほぼ鉛直で,最大軸はバラつきが大きく,上流,下流右岸,右岸のごく低角(〜8°未満)を指す.

堆積物の古流向・水理条件と帯磁率異方性についての考察:ユニットごとに構成粒子が大きく変化せず,マッドドレープや有機物の濃集層といった時間間隙を示す層を挟まないことから,この地層は一回の洪水で堆積したものと考えられる.その堆積方向は,基本的に左岸方向を向いた斜面に沿って側方付加したものである.また,各ユニットの堆積構造と,それらが上方粗粒化することから,各ユニットの水理条件は,ユニットA・Bはlower flow regime(フルード数1未満),ユニットCはupper flow regime(フルード数1以上)と見なせる.すなわち,一連の洪水の停滞〜減衰に伴う水位低下で掃流力が増加することで,このような堆積物が形成されたと考えられる. X線CT画像解析による粒子配列はこの解釈と概ね整合する.すなわち,ユニットA堆積時には斜面下方への重力の作用で最大軸が左岸を向き,ユニットB堆積時には水位低下時の下流方向への流れが卓越し,最大軸が上流―下流方向を向く.ユニットC堆積時には,下流方向への流れよりも斜面下方への流れが卓越し,最大軸が左岸方向に集中した.帯磁率測定の結果から,ユニットAの最大軸は,古流向,すなわち左岸を向く斜面と平行な方向を指すが,傾斜は斜面/フォーセット葉理よりも緩く,粒子のインブリケーションと逆を向く場合がある.ユニットBの最大軸は,バラつきは大きいが古流向と平行な方向を指し,傾斜は斜面/フォーセット葉理よりも高角ではあるが粒子のインブリケーションと同じ方向を向く.ユニットCの最大軸はバラつき,古流向と全く整合しない.以上のことは,帯磁率異方性のみから古流向や粒子配列を完全に復元するのは難しく,少なくとも詳細な層相の記載と解析が必要であることを示している.一方で,ユニットAからユニットCに向かって帯磁率異方性の最大軸の分散が大きくなることは,lower flow regimeからupper flow regimeへの掃流力の増大を反映している可能性があり,帯磁率異方性と水理条件がある程度対応することを示唆する.

謝辞:本研究はJSPS科研費20K21055の助成を受けたものである.
文献:横川,地球科学,52,p.370-377,1998.