17:15 〜 18:30
[HCG28-P03] 2019年千曲川氾濫による破堤堆積物の水路実験
2019年10月13日,台風19号の豪雨により長野県を流れる千曲川が氾濫し,長野市の穂保地域では,左岸の幅30 mの堤防が70 mに渡って決壊した.この決壊により,破堤地点から氾濫原方向へ流路が形成され,流路の上流側に礫質の砂礫堆,下流側には砂質の砂礫堆が認められた.洪水発生直後に行われた現地調査では,礫質砂礫堆において3地点,砂質砂礫堆において9地点でトレンチ掘削が行われた.礫質砂礫堆は主に下部の含礫砂層と上部の礫層によって構成されており,砂質砂礫堆では,最も破堤地点に近い地点において3層の逆級化を示す含礫砂層が確認された.本研究では,破堤堆積物の分布や堆積学的特徴が,破堤プロセスの中でどのような過程を経て形成されたのかを解明するため,破堤堆積物形成の水路実験を行った.
実験では,水路は千曲川氾濫を単純化した模擬実験を想定して,長さ約2 m,幅8 cmの直線水路を使用し,2種類のカラーサンド(粒径150–250 μmの礫想定緑砂と粒径40–100 μmの浮遊砂想定赤砂)と水をタンクで攪拌し、ポンプで直線水路の上流端から給砂した.水路の下流端に可動式の板を置いて水位をコントロールし,切り抜かれた水路中央部の側壁(35 cm)において,まずは越流を起こした.次に,切り抜かれた側壁にはめておいたシャッターを取り外すことで決壊を起こし,水平を保った氾濫原の板上(100×150 cm)に形成された堆積物を観察した.実験条件を変えながら,10回の実験を行い,その中で最も再現度の高かったRun 10について詳細な分析を行った.
Run 10では小分けにされ,積み重なった高さ2 cmのシャッターを取り外すことで越流の段階と破堤の段階を再現した.シャッターが4つ積み重なった状態で流水開始から59秒後に最上部のシャッターを1つ取り外し,越流を起こした.越流開始から28秒後に上部のシャッターを2つ同時に取り外し,破堤を起こした.底部にシャッターを1つ残したまま実験を続け,破堤開始から132秒後に流水を止めた.実験の様子を撮影した映像から,越流時(実験開始から79秒後)には破堤部から流路が形成され,その両脇に赤砂が堆積した.主流路と直交方向から計測して,越流流路は約24°下流方向へ傾いた方向へ延びていた.破堤してからすぐに(実験開始から87秒後),氾濫流は越流当初の堆積物を押し流し,赤砂と緑砂よりなる砂礫堆が越流流路の上流域に形成された.[成瀬1] 破堤部からの越流流路は,形成された砂礫堆に阻害されて下流側(破堤開始から30秒後には約32°下流方向)へ移動した.破堤開始から90秒後には,上流側の砂礫堆はさらに下流側へと堆積を進め,それに伴って主流路もさらに下流側(約38°下流方向)へ移動した.同時に下流側の砂礫堆が形成され始めた.
水路実験時に計測した氾濫流速から,越流時には約41 cm/s,破堤直後には約83 cm/s,破堤開始から60秒後には約53 cm/sと,破堤直後の氾濫流速が最も高い値を示した.すなわち,上流側の粗粒な礫質砂礫堆は破堤直後の高い底面せん断応力を示す流れのベッドロードから堆積したものである.その後,氾濫流が減衰しながら流路を下流側へ移動させたことで,粗粒な砂堆は上流側に取り残されることとなった.氾濫原には予め5 cmごとに格子線が引かれており,それを用いて形成された堆積物の層厚や2種類の砂の重量分布を分析したところ,礫を想定した緑砂は下流側よりも上流側の砂礫堆に多く含まれており,緑砂の分布も上流側の砂礫堆の方が下流側の砂礫堆よりも破堤部からより遠い位置に分布する傾向が見られた.このことは,上流側の砂礫堆がより高いせん断応力を示す[成瀬2] 氾濫流で形成されたことを支持する.
水槽実験において形成された上流の粗粒砂堆の特徴は,2019年の千曲川氾濫で見られた礫質砂堆の特徴と極めてよく類似している.すなわち,実験と同様に,千曲川の粗粒氾濫堆積物も氾濫流の減衰に伴う流路のシフトというプロセスで形成された可能性が高い.隔離された上流側の粗粒砂堆が一般的な氾濫原堆積物の特徴なのか,それとも特定の水理条件の元でのみ形成される地形要素なのかについては,今後の実験および野外調査に基づく検討が必要となるだろう.
実験では,水路は千曲川氾濫を単純化した模擬実験を想定して,長さ約2 m,幅8 cmの直線水路を使用し,2種類のカラーサンド(粒径150–250 μmの礫想定緑砂と粒径40–100 μmの浮遊砂想定赤砂)と水をタンクで攪拌し、ポンプで直線水路の上流端から給砂した.水路の下流端に可動式の板を置いて水位をコントロールし,切り抜かれた水路中央部の側壁(35 cm)において,まずは越流を起こした.次に,切り抜かれた側壁にはめておいたシャッターを取り外すことで決壊を起こし,水平を保った氾濫原の板上(100×150 cm)に形成された堆積物を観察した.実験条件を変えながら,10回の実験を行い,その中で最も再現度の高かったRun 10について詳細な分析を行った.
Run 10では小分けにされ,積み重なった高さ2 cmのシャッターを取り外すことで越流の段階と破堤の段階を再現した.シャッターが4つ積み重なった状態で流水開始から59秒後に最上部のシャッターを1つ取り外し,越流を起こした.越流開始から28秒後に上部のシャッターを2つ同時に取り外し,破堤を起こした.底部にシャッターを1つ残したまま実験を続け,破堤開始から132秒後に流水を止めた.実験の様子を撮影した映像から,越流時(実験開始から79秒後)には破堤部から流路が形成され,その両脇に赤砂が堆積した.主流路と直交方向から計測して,越流流路は約24°下流方向へ傾いた方向へ延びていた.破堤してからすぐに(実験開始から87秒後),氾濫流は越流当初の堆積物を押し流し,赤砂と緑砂よりなる砂礫堆が越流流路の上流域に形成された.[成瀬1] 破堤部からの越流流路は,形成された砂礫堆に阻害されて下流側(破堤開始から30秒後には約32°下流方向)へ移動した.破堤開始から90秒後には,上流側の砂礫堆はさらに下流側へと堆積を進め,それに伴って主流路もさらに下流側(約38°下流方向)へ移動した.同時に下流側の砂礫堆が形成され始めた.
水路実験時に計測した氾濫流速から,越流時には約41 cm/s,破堤直後には約83 cm/s,破堤開始から60秒後には約53 cm/sと,破堤直後の氾濫流速が最も高い値を示した.すなわち,上流側の粗粒な礫質砂礫堆は破堤直後の高い底面せん断応力を示す流れのベッドロードから堆積したものである.その後,氾濫流が減衰しながら流路を下流側へ移動させたことで,粗粒な砂堆は上流側に取り残されることとなった.氾濫原には予め5 cmごとに格子線が引かれており,それを用いて形成された堆積物の層厚や2種類の砂の重量分布を分析したところ,礫を想定した緑砂は下流側よりも上流側の砂礫堆に多く含まれており,緑砂の分布も上流側の砂礫堆の方が下流側の砂礫堆よりも破堤部からより遠い位置に分布する傾向が見られた.このことは,上流側の砂礫堆がより高いせん断応力を示す[成瀬2] 氾濫流で形成されたことを支持する.
水槽実験において形成された上流の粗粒砂堆の特徴は,2019年の千曲川氾濫で見られた礫質砂堆の特徴と極めてよく類似している.すなわち,実験と同様に,千曲川の粗粒氾濫堆積物も氾濫流の減衰に伴う流路のシフトというプロセスで形成された可能性が高い.隔離された上流側の粗粒砂堆が一般的な氾濫原堆積物の特徴なのか,それとも特定の水理条件の元でのみ形成される地形要素なのかについては,今後の実験および野外調査に基づく検討が必要となるだろう.