17:15 〜 18:30
[HCG28-P05] 青海石灰岩の上部石炭系カシモビアンにおけるマイクロコディウム化とその意義
キーワード:マイクロコディウム、石炭紀、カシモビアン、青海石灰岩、陸上露出、海水準変動
【はじめに】
マイクロコディウム(Microcodium)とは,カルシウムに富む土壌中の有機物(植物の根,菌類,腐食化した有機物)が微生物によって分解され,その過程で二次的に生成した炭酸塩鉱物からなる組織である(Kabanov et al., 2008).このため,海成石灰岩中のマイクロコディウムの発達は陸上露出を示す有力な指標として扱われる.
本研究では新潟県青海石灰岩の権現セクションからのマイクロコディウムの産出を報告する.国内ではマイクロコディウムはかつて「黒褐色sparry calcite」と呼ばれていた(Machiyama, 1994).長谷川・後藤(1990)は青海石灰岩のTriticites帯下部(上部石炭系 カシモビアン)から黒褐色sparry calciteを報告した.また竹内・中澤(2010)は権現セクションの上部石炭系からマイクロコディウムの産出を報告した.しかし,その詳しい産状や層準は示されなかった.
【権現セクションの年代】
本研究では,層厚約30mの権現セクションの中部層準(11m層準)と最上部層準(28m層準)からシュワゲリナ科のフズリナの産出を確認した.それらは1)殻の長径が約2〜3mmと小型で広義のTriticites属中では原始的形態を有すこと,2) 殻の正縦断面(axial section)が卵型で,塊状のコマータ(chomata)を伴うこと,3) 正横断面(sagittal section)において,その巻きが初期においてきつく巻き、成長に伴いに巻きが緩み、隔壁の近くや室の基底部において暗色を呈す二次的な堆積物が見られることなどを根拠に,上部石炭系の中部カシモビアンを指標するMontiparus属に比定される(Davydov, 1990).
【マイクロコディウムの産状と特徴】
また,権現セクションの上部層準(~27m層準)でマイクロコディウムの発達を確認した.マイクロコディウムの母岩はウミユリの化石片やペロイドを多く含むBioclastic Pack–wackestoneである.露頭表面ではマイクロコディウム密集部は不定形〜叢雲状に発達し,叢雲状の密集部の一部は層理面方向に伸張する.薄片スケールではマイクロコディウムは直径2mm程度のトウモロコシの穂軸(corn-cob)状の断面を示し,その周囲にはブロック状のセメントで充塡される溶脱構造が頻繁に発達する.
【マイクロコディウムの炭素・酸素同位体比】
マイクロコディウムの母岩であるBioclastic Pack–wackestoneの炭素同位体比は+0.8〜+3.5‰ (Ave. +1.94‰),酸素同位体比は−6.9〜−5.5‰である(Ave. -6.05‰).一方,マイクロコディウムの炭素同位体比は0.9〜+2.5‰(Ave. +1.68‰),酸素同位体比は−6.6〜−2.6‰である(Ave. -4.40‰).平均値で見れば,マイクロコディウムで炭素同位体比が低く(-0.26‰),酸素同位体比が高い(+1.65‰).母岩に比べてマイクロコディウムの炭素同位体比が軽くなるのは,微生物の腐蝕・分解の過程で12Cがより多く取り込まれたためと考えられる(Kabanov, 2008).
【ほかの海山型石灰岩のマイクロコディウムとの比較】
以上のことから,権現セクションでは中期カシモビアン直後に海上に露出し,石灰岩の表面で土壌化とマイクロコディウム化が進行したと解釈される.秋吉台石灰岩ではモスコビアンからカシモビアンにかけてマイクロコディウムが発達することが知られている(長谷川, 1988; Machiyama, 1994; Sano et al., 2004).特にSano et al. (2004)は上部カシモビアンの化石帯が欠落することを根拠に,後期カシモビアンに秋吉台石灰岩が海上露出したことを示した.また足尾帯のカシモビアン期と思われる海山型石灰岩からもマイクロコディウムの産出が報告されている(内山ほか,2010).海山型石灰岩の海上露出やマイクロコディウム形成の同時性については,今後,海水準変動や海山の古地理的位置などを含めて包括的に議論していく必要があるだろう.
【引用文献】
Davydov, 1990, Paleontol. Jour. 2, 13-25; 長谷川, 1988, 昭和62年度科学研究費補助金(一般C)研究成果報告書, 14pp. 3 figs., 3pls.; 長谷川・後藤, 1990, 日本地質学会第97年学術大会見学旅行案内書, pp. 227 – 260; Kabanov et al., 2008, Sediment. Geol. 205, 79–99; 柿崎ほか, 2018, 地質学会第125年学術大会講演要旨, p. 195; 竹内・中澤, 2010, In: 長森ほか(編), 5万分の1地質図幅「小滝」説明書, pp. 15–28; Sano et al., 2004, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol. 213, 187–206; 内野ほか, 2010, 地質雑 116, 118-123.
マイクロコディウム(Microcodium)とは,カルシウムに富む土壌中の有機物(植物の根,菌類,腐食化した有機物)が微生物によって分解され,その過程で二次的に生成した炭酸塩鉱物からなる組織である(Kabanov et al., 2008).このため,海成石灰岩中のマイクロコディウムの発達は陸上露出を示す有力な指標として扱われる.
本研究では新潟県青海石灰岩の権現セクションからのマイクロコディウムの産出を報告する.国内ではマイクロコディウムはかつて「黒褐色sparry calcite」と呼ばれていた(Machiyama, 1994).長谷川・後藤(1990)は青海石灰岩のTriticites帯下部(上部石炭系 カシモビアン)から黒褐色sparry calciteを報告した.また竹内・中澤(2010)は権現セクションの上部石炭系からマイクロコディウムの産出を報告した.しかし,その詳しい産状や層準は示されなかった.
【権現セクションの年代】
本研究では,層厚約30mの権現セクションの中部層準(11m層準)と最上部層準(28m層準)からシュワゲリナ科のフズリナの産出を確認した.それらは1)殻の長径が約2〜3mmと小型で広義のTriticites属中では原始的形態を有すこと,2) 殻の正縦断面(axial section)が卵型で,塊状のコマータ(chomata)を伴うこと,3) 正横断面(sagittal section)において,その巻きが初期においてきつく巻き、成長に伴いに巻きが緩み、隔壁の近くや室の基底部において暗色を呈す二次的な堆積物が見られることなどを根拠に,上部石炭系の中部カシモビアンを指標するMontiparus属に比定される(Davydov, 1990).
【マイクロコディウムの産状と特徴】
また,権現セクションの上部層準(~27m層準)でマイクロコディウムの発達を確認した.マイクロコディウムの母岩はウミユリの化石片やペロイドを多く含むBioclastic Pack–wackestoneである.露頭表面ではマイクロコディウム密集部は不定形〜叢雲状に発達し,叢雲状の密集部の一部は層理面方向に伸張する.薄片スケールではマイクロコディウムは直径2mm程度のトウモロコシの穂軸(corn-cob)状の断面を示し,その周囲にはブロック状のセメントで充塡される溶脱構造が頻繁に発達する.
【マイクロコディウムの炭素・酸素同位体比】
マイクロコディウムの母岩であるBioclastic Pack–wackestoneの炭素同位体比は+0.8〜+3.5‰ (Ave. +1.94‰),酸素同位体比は−6.9〜−5.5‰である(Ave. -6.05‰).一方,マイクロコディウムの炭素同位体比は0.9〜+2.5‰(Ave. +1.68‰),酸素同位体比は−6.6〜−2.6‰である(Ave. -4.40‰).平均値で見れば,マイクロコディウムで炭素同位体比が低く(-0.26‰),酸素同位体比が高い(+1.65‰).母岩に比べてマイクロコディウムの炭素同位体比が軽くなるのは,微生物の腐蝕・分解の過程で12Cがより多く取り込まれたためと考えられる(Kabanov, 2008).
【ほかの海山型石灰岩のマイクロコディウムとの比較】
以上のことから,権現セクションでは中期カシモビアン直後に海上に露出し,石灰岩の表面で土壌化とマイクロコディウム化が進行したと解釈される.秋吉台石灰岩ではモスコビアンからカシモビアンにかけてマイクロコディウムが発達することが知られている(長谷川, 1988; Machiyama, 1994; Sano et al., 2004).特にSano et al. (2004)は上部カシモビアンの化石帯が欠落することを根拠に,後期カシモビアンに秋吉台石灰岩が海上露出したことを示した.また足尾帯のカシモビアン期と思われる海山型石灰岩からもマイクロコディウムの産出が報告されている(内山ほか,2010).海山型石灰岩の海上露出やマイクロコディウム形成の同時性については,今後,海水準変動や海山の古地理的位置などを含めて包括的に議論していく必要があるだろう.
【引用文献】
Davydov, 1990, Paleontol. Jour. 2, 13-25; 長谷川, 1988, 昭和62年度科学研究費補助金(一般C)研究成果報告書, 14pp. 3 figs., 3pls.; 長谷川・後藤, 1990, 日本地質学会第97年学術大会見学旅行案内書, pp. 227 – 260; Kabanov et al., 2008, Sediment. Geol. 205, 79–99; 柿崎ほか, 2018, 地質学会第125年学術大会講演要旨, p. 195; 竹内・中澤, 2010, In: 長森ほか(編), 5万分の1地質図幅「小滝」説明書, pp. 15–28; Sano et al., 2004, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol. 213, 187–206; 内野ほか, 2010, 地質雑 116, 118-123.