日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG29] 圏外環境における閉鎖生態系と生物システムおよびその応用

2021年6月6日(日) 09:00 〜 10:30 Ch.15 (Zoom会場15)

コンビーナ:篠原 正典(帝京科学大学)、加藤 浩(三重大学 地域イノベーション推進機構 先端科学研究支援センター 植物機能ゲノミクス部門)、木村 駿太(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 / 宇宙探査イノベーションハブ(併任))、オン 碧(筑波大学)、座長:オン 碧(筑波大学)、加藤 浩(三重大学 地域イノベーション推進機構 先端科学研究支援センター 植物機能ゲノミクス部門)、篠原 正典(帝京科学大学)

09:20 〜 09:45

[HCG29-03] 有人宇宙活動を支える機能性宇宙食材の食料自給システムの確立

★招待講演

*二川 健1 (1.徳島大学大学院 宇宙食品産業・栄養学研究センター)

キーワード:機能性宇宙食、廃用性筋萎縮、植物工場

現在、人類はは21世紀の宇宙大航海時代を迎えつつある。宇宙環境は様々な身体的変化をきたす。その変化の一つに筋萎縮(サルコペニア)がある。我々は、この無重力による筋萎縮のメカニズムを明らかにし、その栄養学的治療法を考案することを目指している。

 これまでの研究で、無重力ストレスによってユビキチンリガーゼCbl-bの発現が増大し、それがIRS-1のユビキチン化、分解を誘導しIGF-1シグナルが阻害され筋萎縮が発生することを明らかにしてきた。しかし、細胞が無重力ストレスをどのように感知しCbl-bの発現を亢進しているかは依然として不明なままであった。そこで、この細胞による重力の感知機構を明らかにするため、Myolab宇宙実験、Cell mechanosensing宇宙実験、地上の模擬微小重力培養装置である3D-Clinorotationを用いた検討を行った。まず、Myolab宇宙実験において、1週間無重力空間で培養した宇宙サンプルのメタボローム解析を行った。その結果、細胞中の酸化ストレス蓄積量とエネルギー代謝に関連したミトコンドリアに局在するタンパク質の発現に変化が見られた。その酸化ストレスが、Egr1/2やERK1/2シグナルを介して、ユビキチンリガーゼCbl-b発現が制御されていることがわかった。

 無重力による筋萎縮を予防しうる機能性食材のターゲットして、ユビキチンリガーゼCbl-bと酸化ストレスを考えた。

1)大豆たん白質(抗ユビキチン化作用)

 ユビキチンリガーゼCbl-bのターゲット分子であるIRS-1の結合に対する阻害活性を有するDG(p)YMPペプチド(Cblinペプチドと名付けた)を発見した。さらに、大豆たん白質であるグリシニンがその類似配列をもつことがわかった。これらは in vitroやin vivo実験においてCbl-bによるIRS-1のユビキチン化を抑制し筋量を増大させた。また、大豆タンパク質添加食は寝たきり患者の筋力減少の抑制にも有効であった。

2)ポリフェノール(抗酸化作用)

 抗酸化ストレスを軽減できる食事成分としてポリフェノールが注目されている。抗酸化栄養素である大豆イソフラボン、ケルセチンなどが、尾部懸垂による筋萎縮を抑制することを証明した。

 このような筋萎縮に対するこれら大豆の機能性成分の有用性と栄養の重要性から大豆を宇宙環境で自給自足できる植物工場の建設を提唱している。