日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 人間環境と災害リスク

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.15 (Zoom会場15)

コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、佐藤 浩(日本大学文理学部)、座長:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、佐藤 浩(日本大学文理学部)

14:05 〜 14:20

[HDS08-03] 火山灰土が分布する人工改変丘陵における地震時流動性地すべり予測地図:多摩丘陵を例に

*鈴木 毅彦1、千木良 雅弘2、松四 雄騎3、中山 大地1 (1.東京都立大学都市環境学部、2.深田地質研究所、3.京都大学防災研究所)

キーワード:地震時流動性地すべり、人工改変地形、丘陵、火山灰土、多摩丘陵

はじめに
日本列島各地の丘陵の中には,これらを被覆してローム層と呼ばれる降下テフラ堆積物や火山灰土からなる風成堆積物が分布する場合がある。ローム層は未固結で脆く,丘陵を被覆する場合これらは不安定な斜面を構成する.このため強い地震動発生時に流動性地すべりが生じ,場合により大規模な斜面災害が発生する.2018年北海道胆振東部地震,2017年熊本地震の際にはいずれの地域においてもこのような流動性地すべりが発生して被害が生じており,湿潤変動火山帯特有な斜面災害といえる.本研究の目的は,このような流動性地すべりが人工改変の進んだ丘陵地でどのように発生しうるかを検討し,地図化することである.
地震時流動性地すべりが発生しやすい地域は日本列島スケールである程度抽出されている.一方で実用的なスケールの地震時流動性地すべり予測図作成には,小地形単位毎にローム層の層厚を考慮し,とくに人工改変地では切土によるローム層の除去も考慮する必要がある.本研究ではとくにこのような観点に立ち,ローム層が除去された丘陵地を事例に,人工改変前後の2時期を対象に数千分の1程度の精度でローム層の層厚分布図を作成し,人工改変により地すべりリスクがどのように変化したかを評価する.また切土のみならず盛土分布とその層厚もマップ化する.

対象地域としての東京西部,多摩丘陵
本研究では本来ローム層が厚く発達するものの,ニュータウン建設に伴う人工改変によりローム層が著しく除去された事例として,東京西部に広がる多摩丘陵の御殿峠地区と唐木田地区を研究対象域とした.両地域には中期更新世に相模川が運搬した扇状地堆積物である御殿峠礫層が分布する.同礫層は多摩ローム層などの風成層に覆われ,ローム層の層厚はところにより30 m程度に達する.御殿峠礫層とローム層は開析を受けているため,礫層の堆積原面に起因する平坦面はほとんど残されていないが背面はよく揃っている.以上から,人工改変前における両地域では御殿峠礫層が残存している部分の斜面地下にローム層がまとまって保存されていたことが予想できる.

研究手順
改変前の地形・地質の復元:多摩丘陵において人工改変前の地形とローム層の分布状況を復元するため,改変前の1950年代に作成された3000分の1地形図「御殿峠」(東京都建設局)と「唐木田」(東京都首都整備局)から数値標高データと等高線図を作成した.これに改変前のローム層の分布情報を加えるため10,000分の1地質図「多摩丘陵北西部関東ローム地質図 特殊地質図 16」(地質調査所,1972)からローム層が整合に覆う御殿峠礫層頂面の分布や年代ごとのローム層分布をGIS化し,原地形との標高差を求めてローム層のオリジナル層厚を求めた.
改変後の地形・地質の復元:改変後の地形,すなわち現在の地形情報を国土地理院基盤地図情報の数値標高モデル(5 mメッシュ)と航空レーザーデータ(2 mメッシュ)DEMデータにより差分をとり、改変前後の地形変化をマップ化した.

結果
御殿峠地域での改変前後の地形変化図にしまされた標高低下地点で切土,増加地点で盛土がなされたと考える.双方ともに、高度で10 m以上の変化が認められる箇所があり,改変前の尾根・谷地形に強く依存する.これらの結果に基づき講演では,ローム層の削剥や残余状況を平面図で示すとともに,顕著な盛土地についても触れる.