16:00 〜 16:15
[HDS08-10] 越境火山災害に関する国際リスクコミュニケーションの特性ー2010年アイスランド火山噴火対応の事例より
キーワード: 越境火山災害、エイヤフィヤトラヨークトル、リスクコミュニケーション
本研究では、国境を越え複数国に被害をもたらす「越境災害」をめぐるリスクコミュニケーションの特性を、2010年4月14日に発生したアイスランド国のエイヤフィヤトラヨークトル(Eyjafjallajökull)火山噴火をめぐる政策決定の分析から検討する。
2010年のアイスランドの火山噴火では、火山灰が欧州広域に拡散した。火山噴火時に上空を飛行する航空機への対応については、国際民間航空機機関(ICAO)が火山灰緊急対応計画を定めており、それは、火山灰によるジェットエンジン停止のリスクを回避するために火山灰がある状況での飛行を認めない、すなわち「ゼロ寛容(zero-tolerance)」という方針であった。そのため、噴火後に、欧州各国政府の判断により空港は閉鎖され、航空便が運休した。しかしながら、火山灰の広域拡散は長期化し、それに伴う社会経済被害の拡大を避けるために、空港・航空便の運航再開を求める社会的な圧力が高まった。運航を再開するには、政策決定の根拠となる火山灰の「許容可能基準(acceptable-tolerance)」の検討が求められた。最終的に民間セクターを含む多様なアクターの協調により暫定基準が検討され、暫定基準を基づき順次運行が再開された。
この事例は、災害という緊急性が高い状況において、既存の制度では規定されておらず、かつ精密な科学技術的根拠を必要とする国際的な政策決定をどのように行うのか、という問題を提議するものであった。噴火後の政策決定においては、以下の点が議論の争点となった。第一に、火山灰拡散予報の精度をめぐる課題である。欧州各国の空港閉鎖や航空便の運休は、アイスランドを含む国際航空路の火山灰を監視するロンドン航空路火山灰情報センター(VAAC)による予報を根拠とするものであった。しかしながら、予報が過大評価になっているのではないか、という懸念が次第に提示されるようになった。当時、欧州では広域の火山灰観測体制が脆弱であり、火山のある国と被害を受ける国との間の詳細な情報共有体制、火山灰を監視するVAAC間の情報共有体制等が検討されていなかった。噴火後は、実観測を通した現状把握と火山灰監視機関間の情報共有体制が強化されている。第二に、大気中の火山灰が航空機のジェットエンジンに及ぼす影響についての技術的評価が求められた点である。2010年の噴火では、民間企業や研究機関等により技術的な側面からの検証が行われ、最終的に暫定基準に基づく運行再開という方針がとられた。その後、ICAOにより火山灰がジェットエンジンに及ぼす影響についての本格的な検証が行われた。第三に、安全基準をめぐる国際的な政策決定の仕組みがなかった点である。噴火後に、欧州委員会を中心に、EU加盟各国の運輸相による臨時のテレビ会議が開催され、暫定基準が検討・決定された。欧州委員会は、この災害後に火山噴火を含む欧州航路のリスク管理体制を強化するため,2010年5月19日に欧州航空危機調整部門(EACCC)を常設機関として設置している。
以上に述べた点は、越境火山災害対応においては、火山がある国/拡散する火山灰による被害を受ける国/国際航空路上の火山灰を監視する機関/航空関係企業等の多様なアクター間での国際的なリスクコミュニケーションの仕組みが求められることを示している。なかでも、火山を監視している機関間のリアルタイムの国際情報共有体制、火山灰拡散により影響を受ける組織間のネットワークの構築、緊急時の意思決定の仕組みは重要であり、それらを機能させるには平時からのリスクコミュニケーションの仕組みを構築しておく必要がある。日本においても、桜島や阿蘇山など、大規模に火山が噴火した場合国際的に影響を及ぼし得る火山が複数あることから、欧州の事例に基づき日本における対応の仕組みの構築が望まれる。
2010年のアイスランドの火山噴火では、火山灰が欧州広域に拡散した。火山噴火時に上空を飛行する航空機への対応については、国際民間航空機機関(ICAO)が火山灰緊急対応計画を定めており、それは、火山灰によるジェットエンジン停止のリスクを回避するために火山灰がある状況での飛行を認めない、すなわち「ゼロ寛容(zero-tolerance)」という方針であった。そのため、噴火後に、欧州各国政府の判断により空港は閉鎖され、航空便が運休した。しかしながら、火山灰の広域拡散は長期化し、それに伴う社会経済被害の拡大を避けるために、空港・航空便の運航再開を求める社会的な圧力が高まった。運航を再開するには、政策決定の根拠となる火山灰の「許容可能基準(acceptable-tolerance)」の検討が求められた。最終的に民間セクターを含む多様なアクターの協調により暫定基準が検討され、暫定基準を基づき順次運行が再開された。
この事例は、災害という緊急性が高い状況において、既存の制度では規定されておらず、かつ精密な科学技術的根拠を必要とする国際的な政策決定をどのように行うのか、という問題を提議するものであった。噴火後の政策決定においては、以下の点が議論の争点となった。第一に、火山灰拡散予報の精度をめぐる課題である。欧州各国の空港閉鎖や航空便の運休は、アイスランドを含む国際航空路の火山灰を監視するロンドン航空路火山灰情報センター(VAAC)による予報を根拠とするものであった。しかしながら、予報が過大評価になっているのではないか、という懸念が次第に提示されるようになった。当時、欧州では広域の火山灰観測体制が脆弱であり、火山のある国と被害を受ける国との間の詳細な情報共有体制、火山灰を監視するVAAC間の情報共有体制等が検討されていなかった。噴火後は、実観測を通した現状把握と火山灰監視機関間の情報共有体制が強化されている。第二に、大気中の火山灰が航空機のジェットエンジンに及ぼす影響についての技術的評価が求められた点である。2010年の噴火では、民間企業や研究機関等により技術的な側面からの検証が行われ、最終的に暫定基準に基づく運行再開という方針がとられた。その後、ICAOにより火山灰がジェットエンジンに及ぼす影響についての本格的な検証が行われた。第三に、安全基準をめぐる国際的な政策決定の仕組みがなかった点である。噴火後に、欧州委員会を中心に、EU加盟各国の運輸相による臨時のテレビ会議が開催され、暫定基準が検討・決定された。欧州委員会は、この災害後に火山噴火を含む欧州航路のリスク管理体制を強化するため,2010年5月19日に欧州航空危機調整部門(EACCC)を常設機関として設置している。
以上に述べた点は、越境火山災害対応においては、火山がある国/拡散する火山灰による被害を受ける国/国際航空路上の火山灰を監視する機関/航空関係企業等の多様なアクター間での国際的なリスクコミュニケーションの仕組みが求められることを示している。なかでも、火山を監視している機関間のリアルタイムの国際情報共有体制、火山灰拡散により影響を受ける組織間のネットワークの構築、緊急時の意思決定の仕組みは重要であり、それらを機能させるには平時からのリスクコミュニケーションの仕組みを構築しておく必要がある。日本においても、桜島や阿蘇山など、大規模に火山が噴火した場合国際的に影響を及ぼし得る火山が複数あることから、欧州の事例に基づき日本における対応の仕組みの構築が望まれる。