日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 人間環境と災害リスク

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.09

コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、佐藤 浩(日本大学文理学部)

17:15 〜 18:30

[HDS08-P02] 2020年台風Ulyssesによるフィリピンの洪水被害マッピング

*南雲 直子1、会田 健太郎1、大原 美保1、藤兼 雅和1 (1.土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM))

キーワード:台風、衛星画像、洪水、被害、フィリピン

台風Ulysses(国際名Vamco)は2020年11月にフィリピン中部ルソン地方を横断し、強風と豪雨をもたらして全国で101名の人々が犠牲になった。洪水・土砂災害の発生件数は全国で264件、被災自治体数は541、影響人口は5,184,824名である(2021年1月13日時点)。また、避難者数は最大で556,318人に達した(2020年11月15日時点)。フィリピンのような洪水常習地においては、実際に起こったハザードや被害の実態を丁寧に調べて整理し、災害対応や復旧、洪水リスク評価に役立てていくことが重要である。ところが、このような広域災害の全容をつかむのは容易ではない。また、現在のところ世界的な新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、十分な現地調査を行うことは困難である。そこで本研究では、インターネットを通じて入手できる衛星観測雨量や衛星画像、フィリピン国家災害リスク軽減評議会が定期的に発表する被害報などを用いて浸水域や影響人口、避難者数や家屋被害等に関する地図を作成し、台風Ulyssesによる洪水ハザードと被害の実態把握をおこなった。台風Ulyssesがもたらした雨はルソン島東部で多く、11月11日から14日の3日間降水量は多いところで300 mm以上となった。その結果、ルソン島の各所で河川の氾濫が起こった。特に、マニラ首都圏を流れるパシグ・マリキナ川や、島の北部カガヤンバレー地方を流れるカガヤン川における氾濫は深刻で、それぞれ2009年の台風Ondoy以来、1980年の台風Aring以来の氾濫が生じたとみられる。影響人口は台風の進路に近い中部ルソン地方やカガヤンバレー地方、ビコール地方やマニラ首都圏で多くなった一方で、家屋被害は中部ルソン地方およびビコール地方に集中した。また、台風上陸から3日後には全国で2991か所の避難所が開設され、避難所避難者は324,617人、それ以外の避難者は231,701人となり、人口の30~40%が避難した自治体もあった。このように現地に赴かずともハザードや被害に関する情報を重ね合わせてマッピングすることで、災害特性を時空間的に把握することが可能である。これらは災害記録としてだけではなく、関係者間で災害に関する認識の共有や更なる支援のニーズ把握などに役立つものと期待される。