日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 人間環境と災害リスク

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.09

コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、佐藤 浩(日本大学文理学部)

17:15 〜 18:30

[HDS08-P03] 国際共同研究プロジェクトでの広域台風災害に関する情報提供・共有における Google Earth Engine 活用事例

*会田 健太郎1、南雲 直子1、大原 美保1 (1.土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター)

キーワード:洪水、衛星データ、情報共有、Google Earth Engine、フィリピン、台風

国立研究開発法人土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター (ICHARM) では、フィリピン共和国との国際共同研究として、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム (SATREPS) による研究プロジェクト「気候変動下での持続的な地域経済発展への政策立案のためのハイブリッド型水災害リスク評価の活用」を実施している。本研究プロジェクトの活動は2020年度に開始したものの、世界的な COVID-19 感染拡大のために現地への渡航が制限されている状況にあった。そのような折、2020年11月上旬に台風 Ulysses(フィリピン名、台風22号)がフィリピン北部のルソン島に上陸し強風と豪雨をもたらし、各地で大規模な洪水氾濫を引き起こした。フィリピン当局 NDRRMC (national disaster risk reduction and management council) によれば家屋倒壊や家屋浸水により多くの住民が被災しているとの報告があったが、深刻な被害が予測される地域を含め全体像はほとんど見えていなかった。

このような広域災害の把握に活用されるのが衛星観測であり、このうち欧州宇宙機関 (ESA) の Sentinel シリーズ、米国航空宇宙局 (NASA) の Landsat シリーズなどが無償で利用できる。特に Sentinel シリーズは、合成開口レーダを搭載した Sentinel-1 と光学センサを搭載した Sentinel-2 が現在ともに2機体制で、それぞれ6日間隔と5日間隔で定常的に運用されているため地上モニタリングに有用である。

これら衛星データと同様に行政機関から提供される自治体ごとの被災情報も全体像を把握するために重要である。NDRRMC からは自治体ごとの被災者数や避難所数、避難者数などの情報が定期的にインターネット上で公開されているが、これらを地図上で可視化することが全体像の把握に大きくつながる。

そこで、本プロジェクトにおいて台風 Ulysses の被災状況の全体像を共有するために用いたのが、Google Earth Engine (GEE) である。これは、Google が提供しているクラウド型のマッピングアプリケーションで、全球の衛星データや地理情報が Google のサーバーに格納されており、それらをベースにした情報をプログラムで可視化処理し、web ブラウザから閲覧できる機能が提供されている。GEE の最大のメリットは、居住地域や人的・経済的資源に依存することなく全球のどこにおいても情報を集約・共有することができるシステムを速やかに立ち上げることができること。そして、インターネット環境さえあれば拡大縮小など閲覧自由度の高い方法でたやすく共有できるということである。

本プロジェクトにおいてメンバー間で共有化した情報は、NDRRMC が公開している自治体ごとの被災情報、Sentinel-1 SAR 画像からの推定氾濫域を土地利用に重ね合わせて得られた被災状況、Sentinel-2 光学センサによる可視画像と推定氾濫域、衛星による降水プロダクトで宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が提供している衛星全球降水マップ「GSMaP」と、NASA が提供している Integrated Multi-satellitE Retrievals for GPM (IMERG) による時間ごとおよび累積の降水分布である。これらをルソン島北部の主要3流域のパンパンガ川流域、パッシグ川・ラグナ湖・マリキナ川流域、カガヤン川に適用した。

これら GEE システムでの可視化と情報共有は災害対応の観点から下記のような意義があると考えられる。1) 広域災害で全容がつかめない中で、被害分布の目安が把握できた。これにより、衛星データの扱いに慣れていないメンバーの解析をサポートし、更なる被害把握や災害支援のニーズが高い地域を検討できる。2) COVID-19 の影響で現地に行けず、両国の研究者が顔を合わせることができないなかで、災害対応や復旧などに関して議論できる土台ができた。3) 衛星画像からは浸水範囲を推定できるだけであるが、土地利用図を重ねることで被害分布を把握できるツールとなった。これにより、より災害対応や復旧に活用できる情報として情報共有できた。4) レイヤーを増やしていくことで災害直後だけでなく復旧や復興の進捗のような、後続する様々な段階でも活用できる。