日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 津波とその予測

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.12

コンビーナ:対馬 弘晃(気象庁気象研究所)

17:15 〜 18:30

[HDS09-P03] 津波データベースを用いた回帰モデルによる津波浸水予測:クラスタ分割法の違いによる評価

*上谷 政人1、馬場 俊孝2 (1.徳島大学大学院創成科学研究科理工学専攻、2.徳島大学大学院産業理工学研究部)


キーワード:クラスタリング解析、津波

日本では沖合を伝播する津波は海底水圧計やGPS波浪計で海岸に到達する前に観測可能である。エネルギー保存則より得られるグリーンの法則を用いれば、沖合津波高から沿岸津波高を簡単に推定できる。さらに発展した手法として、多数の津波シミュレーション結果に基づいて回帰するモデル(以降、回帰モデル)が知られており、Baba et al. (2014)やYoshikawa et al. (2019)などがある。これらはシンプルであるが実用的で、処理速度の割に高精度な予測が可能である。しかし、回帰モデルは海岸の任意の1点のみの高さを予測するだけで、最大浸水深分布のような面的な分布を求めるに至っていない。津波災害発災後の応急対応などを考えた場合、沿岸津波高だけでなく、浸水深分布も予測できることが望ましい。既存の回帰モデルで浸水深分布を求めるには、単純には空間上のすべての点について予測を実施すればよいわけだが、予測点が膨大となるため処理時間が長くなるという問題がある。解決策として、津波による浸水深が常に類似しているエリアを予めグループ化して予測点を減らすことが挙げられる。本研究ではこの実現を目的とする。

解析対象地域は徳島県阿南市付近とした。クラスタリング解析を行う浸水深データとして、南海トラフ沿いの地震に対する確率論的津波ハザード評価(防災科学技術研究所,2020)に掲載されている波源断層モデルから計算された津波浸水データベースを用いた。本研究の解析手順として先ず、この津波浸水データベースからランダムに選択した14シナリオの浸水深分布に対して、クラスタリング解析を用いて浸水深がほぼ同じ領域を判別する。これまでの研究では非階層的手法であるk-means法を用いていた。今回は新たにk-means法の改良案であるk-means++法も利用し、クラスタ分割法の違いによる影響を評価した。k-means法及びk-means++法では解析者がクラスタ分割数を定義する必要があり,クラスタ内の浸水深データの平均値で規格化した標準偏差(NSD)が0.2未満となる事を目安としてクラスタ数を設定した。クラスタ数18とした場合とクラスタ数を27とした場合であまり違いが見られなかったので、分割数18を最終的に採用した。次にk-means法とk-means++法それぞれについて、個々のクラスタ化した領域において、クラスタリング解析に用いた14シナリオを除いた津波浸水データベースの浸水深データの特徴量(平均値、標準偏差、最大値)を抽出する。抽出した特徴量を目的変数、DONET観測点の最大津波高を説明変数として、べき乗則による回帰モデル(Yoshikawa et al., 2019)を線形化により構築する。最後に構築したk-means法とk-means++法2通りの回帰モデルを使って、内閣府モデル11ケースによる津波浸水を予測し、フォワード津波計算による真値と比較した。

k-means法とk-means++法が分類した浸水深の領域は類似していた。k-means法とk-means++法についてフォワード津波計算による真値から回帰モデルによる予測値を引いた差を比較した結果、両者の浸水深の予測値は大きく変わらなかった。リアス式海岸を含むクラスタと平野部を含むクラスタを比較した結果、リアス式海岸の予測精度が良く、最も良いクラスタにおいてRMSEは 1.9(m)であったが、平野部でのRMSEは3.2(m)と予測精度が良くなかった。予測精度に違いが見られた原因として、リアス式海岸のクラスタと比べて平野部のクラスタの浸水エリアの分類に問題が有り、予測エリアが広くなった事が考えられる。