日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2021年6月5日(土) 13:45 〜 15:15 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、座長:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

14:15 〜 14:30

[HDS10-03] 衛星画像から抽出されたベトナム北西部湿潤温帯山地における斜面崩壊

*古市 剛久1,2,3、大丸 裕武1、村上 亘1、岡本 隆1 (1.森林総合研究所、2.サンシャインコースト大学、3.宮城教育大学)

キーワード:斜面崩壊、ベトナム北西部、衛星画像、地質、土地利用、豪雨

はじめに
山地地形が拡がりその斜面が広く利用されているベトナム北部では,台風や熱帯低気圧あるいは収束帯による豪雨を引き金として斜面崩壊が多発している.斜面崩壊はベトナム北部における主要な地形形成プロセスであると考えられるが,その実態を詳細に調査して国際的に報告した例は限られている.本報告では,ベトナム北部山地のうち,ホン河(Hong River)以西の地域(ベトナム北西部の山地)での斜面崩壊調査の一環として実施した衛星画像判読の結果を報告する.

地形,地質,土地利用
ベトナム北西部の主要3河川であるホン河,ダー河(Da River),マー河(Ma River)はほぼ平行に配列して北西から南東方向に流れる.稜線部の標高が2500mを超える急峻なコンボイ山地(Con Voi Mountains)はホン河とダー河に挟まれ,ホン河断層帯(Red River Fault Zone)の南西側に形成されている.ほぼ並行して流れる主要3河川の河谷もホン河断層帯に平行な構造線(ダー河断層,ソンラ断層,マー河断層等)に沿って発達したと考えられている.地質は石灰岩を多く挟む古生界もしくは中生界の堆積岩が広く分布するが,中生界の火成岩や火砕岩,断層沿いには変成岩なども見られる.山地斜面は広く耕作地あるいは造林地として利用されており,段々畑が尾根まで延々と続く景観もみられるが,森林伐採が進み荒廃した斜面も見られる.

気象
ベトナム北西部は温帯湿潤気候に位置づけられ,西部北太平洋で発生する台風が西進してベトナム北部海岸へ上陸し,更に西進して北西部山地にも大雨を降らせることがある.また,熱帯擾乱による南寄りの風と中緯度モンスーンの北寄りの風が出会う場所で収束帯が形成されて大雨を降らせることもある.ベトナム北部において特に4月から9月の雨季にみられるこうした大雨の発生頻度には,エルニーニョ南方振動も影響しているという指摘がある.全球大気モデルの計算によれば,ベトナム北部では台風に伴う雨季の大雨が,20世紀終盤に比べて,21世紀の前半及び終盤では増加すると予測されている.

抽出された斜面崩壊の分布域,特徴,発生時期
斜面崩壊の抽出はGoogle Earthで閲覧できる経年の衛星画像,及び複数年のWorlview-2(1.8m解像度)とPleiades(2.0m解像度)の衛星画像を用いて目視で行った.その結果,多くの地域で崩壊地が認められたが,最も顕著なものとして,イェンバイ省(Yen Bai Province),及びライチャウ省(Lai Chau Province)において2018年の雨季に発生したと見られる崩壊地があることが分かった.ベトナム北西部の2018年は,6月の熱帯低気圧(Tropical Storm)Ewiniar,7月の熱帯低気圧Son-Tinh,8月の熱帯低気圧Bebincaなど,豪雨に度々見舞われた年であった.イェンバイ省西部では,多数の表層崩壊がコンボイ山地中央部の標高1500mから2000m付近の,森林が広範囲で伐採され草地となっている深成岩分布域で発生したとみられる.ライチャウ省南東部では,幅100m程度,長さ650m程度の崩壊域を持つ深層崩壊が,広範囲に森林伐採が見られる標高600m内外の玄武岩分布域で発生したとみられる.その崩壊は崩壊地源頭部に立地していた集落を消滅させ,流出した土砂は河谷に沿って崩壊域の下流約4kmの区間に亘って堆積した.

今後の視点
イェンバイ省西部及びライチャウ省中南部の斜面崩壊地区での現地調査では,斜面地形,基盤地質,表土層,斜面水文,土地利用などを検討して2018年の斜面崩壊の発生要因を分析する予定であり,もってベトナム北西部山地での斜面崩壊の特徴を考察し,調査対象地域の斜面崩壊リスクマップを作製し,その上でベトナム北西部山地において防災や減災につながる土地利用計画(すなわち,治山)の考え方を整理していきたい.その検討過程では,予測される気候変動への適応を踏まえた内容とする必要があるだろう.