15:30 〜 15:50
[HDS10-07] 降雨と場の条件の相互関係に基づく崩壊発生場の逆解析
★招待講演
キーワード:斜面崩壊、無限長斜面安定式、逆解析、土層厚
1.はじめに
斜面崩壊の発生する場所と時刻の予測に関する研究は盛んに行われており、その中でも、場の条件と降雨により発生する地下水深から斜面安定式において力学的に発生条件を推定する方法は、近年数値標高モデルが得られやすくなったことで、広範囲のシミュレーションを可能にした。しかし、時空間的な変化が大きい山地斜面における場の条件設定は、依然課題となっている。本稿では、無限長斜面安定式による崩壊発生条件を、斜面勾配及び土層の単位体積重量で正規化して整理した上で、崩壊発生事例に対して崩壊発生時の水分条件及び場の条件の逆解析を試みたので報告する。
2.無限長斜面安定式の正規化表現と場の条件と地下水条件
無限長斜面安定式は一般に、表層土層におけるせん断応力と抵抗力の比で示される(Eq-1)が、本稿では今泉ら(2003)と同様に、土の粘着力項Fcと地下水深項Fwに分けて整理した。このとき、土の粘着力項に、土の粘着力を含む場の条件で構成された正規化パラメータFCCを導入し、安全率Fsが1.0の場合について、土の内部摩擦角で正規化された斜面勾配と、土層厚で正規化された地下水深による地下水深項との関係として示す(Eq-2)。この関係は、崩壊発生時における場の条件と水分条件の関係を示しているため、実際の崩壊地の場の条件から得られたFCCからは崩壊時の水分条件を推定することが可能であるし、斜面勾配と水分条件から、FCCの取りうる範囲として場の条件を推定することが可能である。
一方、地下水深(h)については多くの流出解析手法が提案されている。例えばRosso(2006)の提案する空間的な定常水位を仮定した簡易的な地下水モデルを組み合わせると、崩壊発生条件となる地下水深の土層厚比に対応する地下水に有効な継続時間内降雨量を得ることができる。
3.平成25年伊豆大島豪雨災害への適用
平成25年10月25日伊豆大島元町地区で発生した斜面崩壊では、崩壊深が1m未満の浅い崩壊が源頭部にあり、そこから面的に広い範囲が土石流として流下した。崩壊地に含まれる10 mグリッドの勾配Iに対して、土層厚は0.8、1.0、1.2m、土の粘着力は5.0、6.0 kN/m2で仮定したFccを示す。地下水深h/D=0の状態に着目すると、C=5.0 kN/m2とすると、土層厚1.0mでは勾配45°以上では安定条件を得られない(Fig.1)。一方、h/D=1.0の状態に着目すると、C=6.0 kN/m2とすると、土層厚0.8m、勾配40°未満の斜面では、崩壊することはない(Fig.2)。実際の崩壊地の勾配が概ね50°未満、崩壊深1.0m程度であることを勘案すると、土の粘着力は少なくとも5.0以上6.0程度であったことが逆算的に推定される。この時、崩壊地はh/D=1.0となっても、安全率1.0を下回らない勾配部分にも分布する。崩壊後に裸地として判読される部分は、土石流の流送区間や崖錐部分を巻き込んでいるためである。
4.過去の崩壊地分布図を用いた再解析の試み
本手法を、調査結果が十分でない過去の崩壊発生事例に適用することにより、過去事例の崩壊発生時の場の条件に対する再解析も期待できる。ここでは、1969年~1979年の空中写真から判読された雨畑川流域稲又谷川中下流域の過去の崩壊地判読結果(Aniya.M,1978)に適用した。大金沢と同様に10 mグリッドから求めた崩壊地の斜面勾配に、土層厚、土の粘着力の条件を変えて比較した。大金沢と比較して流域全体の斜面勾配が急峻な地形であり、崩壊地の斜面勾配も55°を上回る場所も多い。しかし、土の内部摩擦角35°に対して土の粘着力を8.0 kN/m2と仮定したとしても、55°以上では、土層厚1.2m以上の厚さは水深が発生していなくても安定条件を得られない(Fig.3)。従って、このような流域では、崩壊発生~土層厚の回復~再崩壊の周期は短く、浅い崩壊が頻繁に発生すること、また、無限長斜面モデルの適用できない崩壊形態(岩盤の剥離など)での崩壊を仮定する必要があることが推察される。
5.おわりに
本稿では、無限長斜面安定式をもとに崩壊発生条件を示す正規化指標FCCを用いて、崩壊発生時の場の条件を推定した事例を示した。面的な現地調査・計測が困難な山地斜面崩壊の場の条件把握において、概略的な場の条件把握手法として今後検証を重ねる予定である。
斜面崩壊の発生する場所と時刻の予測に関する研究は盛んに行われており、その中でも、場の条件と降雨により発生する地下水深から斜面安定式において力学的に発生条件を推定する方法は、近年数値標高モデルが得られやすくなったことで、広範囲のシミュレーションを可能にした。しかし、時空間的な変化が大きい山地斜面における場の条件設定は、依然課題となっている。本稿では、無限長斜面安定式による崩壊発生条件を、斜面勾配及び土層の単位体積重量で正規化して整理した上で、崩壊発生事例に対して崩壊発生時の水分条件及び場の条件の逆解析を試みたので報告する。
2.無限長斜面安定式の正規化表現と場の条件と地下水条件
無限長斜面安定式は一般に、表層土層におけるせん断応力と抵抗力の比で示される(Eq-1)が、本稿では今泉ら(2003)と同様に、土の粘着力項Fcと地下水深項Fwに分けて整理した。このとき、土の粘着力項に、土の粘着力を含む場の条件で構成された正規化パラメータFCCを導入し、安全率Fsが1.0の場合について、土の内部摩擦角で正規化された斜面勾配と、土層厚で正規化された地下水深による地下水深項との関係として示す(Eq-2)。この関係は、崩壊発生時における場の条件と水分条件の関係を示しているため、実際の崩壊地の場の条件から得られたFCCからは崩壊時の水分条件を推定することが可能であるし、斜面勾配と水分条件から、FCCの取りうる範囲として場の条件を推定することが可能である。
一方、地下水深(h)については多くの流出解析手法が提案されている。例えばRosso(2006)の提案する空間的な定常水位を仮定した簡易的な地下水モデルを組み合わせると、崩壊発生条件となる地下水深の土層厚比に対応する地下水に有効な継続時間内降雨量を得ることができる。
3.平成25年伊豆大島豪雨災害への適用
平成25年10月25日伊豆大島元町地区で発生した斜面崩壊では、崩壊深が1m未満の浅い崩壊が源頭部にあり、そこから面的に広い範囲が土石流として流下した。崩壊地に含まれる10 mグリッドの勾配Iに対して、土層厚は0.8、1.0、1.2m、土の粘着力は5.0、6.0 kN/m2で仮定したFccを示す。地下水深h/D=0の状態に着目すると、C=5.0 kN/m2とすると、土層厚1.0mでは勾配45°以上では安定条件を得られない(Fig.1)。一方、h/D=1.0の状態に着目すると、C=6.0 kN/m2とすると、土層厚0.8m、勾配40°未満の斜面では、崩壊することはない(Fig.2)。実際の崩壊地の勾配が概ね50°未満、崩壊深1.0m程度であることを勘案すると、土の粘着力は少なくとも5.0以上6.0程度であったことが逆算的に推定される。この時、崩壊地はh/D=1.0となっても、安全率1.0を下回らない勾配部分にも分布する。崩壊後に裸地として判読される部分は、土石流の流送区間や崖錐部分を巻き込んでいるためである。
4.過去の崩壊地分布図を用いた再解析の試み
本手法を、調査結果が十分でない過去の崩壊発生事例に適用することにより、過去事例の崩壊発生時の場の条件に対する再解析も期待できる。ここでは、1969年~1979年の空中写真から判読された雨畑川流域稲又谷川中下流域の過去の崩壊地判読結果(Aniya.M,1978)に適用した。大金沢と同様に10 mグリッドから求めた崩壊地の斜面勾配に、土層厚、土の粘着力の条件を変えて比較した。大金沢と比較して流域全体の斜面勾配が急峻な地形であり、崩壊地の斜面勾配も55°を上回る場所も多い。しかし、土の内部摩擦角35°に対して土の粘着力を8.0 kN/m2と仮定したとしても、55°以上では、土層厚1.2m以上の厚さは水深が発生していなくても安定条件を得られない(Fig.3)。従って、このような流域では、崩壊発生~土層厚の回復~再崩壊の周期は短く、浅い崩壊が頻繁に発生すること、また、無限長斜面モデルの適用できない崩壊形態(岩盤の剥離など)での崩壊を仮定する必要があることが推察される。
5.おわりに
本稿では、無限長斜面安定式をもとに崩壊発生条件を示す正規化指標FCCを用いて、崩壊発生時の場の条件を推定した事例を示した。面的な現地調査・計測が困難な山地斜面崩壊の場の条件把握において、概略的な場の条件把握手法として今後検証を重ねる予定である。