15:50 〜 16:05
[HDS10-08] 付加体堆積岩の大規模崩壊多発地における降雨流出特性の空間分布
キーワード:降雨流出、付加体堆積岩、受け盤・流れ盤、大規模崩壊
降雨を外力とする斜面崩壊が選択的な箇所で発生するメカニズムの解明を進める上で,斜面や流域の雨水貯留および排水機構と密接に関係する降雨-流出応答特性の空間的不均一性を明らかにすることは基礎的でありながら極めて重要な課題である。本研究では,静岡県の大井川上流域(井川湖周辺)において大井川本川に流入する17支流を対象として計5時期に河川流量を測定し(観測を行った支流の数は各時期によって異なる),先行降雨量と比流量との対応関係について各支流域の地形および地質構造を踏まえて検討した。大井川上流域の地質は四万十帯に分類される付加体で,大規模崩壊(ここでは崩壊に比べて移動速度が小さい現象である地すべりも含む)の多発域である。井川湖周辺では,層理面は概ね北西方向に傾斜し,大井川本川の流下方向は概ね南~南西方向となっている。従って,検討対象とする支流群は,大局的には,大井川右岸側に位置するものは受け盤構造,左岸側に位置するものは流れ盤構造をもつ。この左岸側の支流群を構成する多くの斜面には滑落崖と緩勾配によって特徴づけられる地すべり地形が高密度に分布し,対照的に右岸側では地すべり地形がほとんど見られず地形勾配は相対的に大きい。本研究では,このような受け盤・流れ盤の構造と降雨-流出応答特性との関係に主眼をおいて検討を行った。対象の支流群の比流量はいずれの時期においても左右岸の別に関わらず顕著な空間的不均一性を呈した(各時期の平均値に対して約6~200 %の値が観測された)。それを受けて,支流群の比流量と受け盤優占度(当該地域の平均的な走向と各支流域における斜面の流行方向の頻度分布に基づき算出)との間には明瞭な相関性は認められなかった。しかしながら,先行降雨量が相対的に少なく基底流が卓越すると考えられる時期については,受け盤優勢の流域群における比流量の平均値は流れ盤優勢の流域群に比べていずれも高い値であった。また,受け盤優勢の流域群においては,比較的長期間の先行降雨量と比流量との高い相関が顕著に認められた。以上のことから,当該地域において,受け盤優勢の流域は流れ盤優勢の流域に比べて雨水の平均的な滞留時間が長く,降雨後の流出流量の逓減が比較的緩やかな傾向があると考えられた。すなわち,層理面の傾斜構造(受け盤・流れ盤構造)に起因する支流域間の降雨-流出応答特性の違いを原位置での流量観測データに基づき示唆する結果となった。
本研究はJSPS科研費 JP19H02989, JP20H00434の助成を受けた。
本研究はJSPS科研費 JP19H02989, JP20H00434の助成を受けた。