日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、座長:内田 太郎(筑波大学)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

16:05 〜 16:20

[HDS10-09] 間隙水の飽和度および水質が地盤比抵抗の変化に与える影響に関する考察

*鈴木 大和1、中谷 洋明1、舩山 淳2、坂島 俊彦2、田中 康士朗2、城森 明3、十山 哲也3 (1.国土技術政策総合研究所、2.パシフィックコンサルタンツ株式会社、3.有限会社ネオサイエンス)

キーワード:地盤比抵抗、間隙水、先行降水量、飽和度、水質

本研究は,地盤比抵抗の変化から水理地質構造を推定するため,間隙水の飽和度と水質が地盤比抵抗に及ぼす影響を検討した.まず,先行降水量が異なる条件下で測定した地盤比抵抗を比較し,その変化と地質踏査による地盤透水性の対応を確認した.次に,現地で採取した試料を用いて地盤比抵抗の室内測定を実施し,間隙水の飽和度と水質による影響の関係を分析した.

 本研究の調査地は,阿蘇カルデラの南東側に位置する高森川(熊本県高森町)である.外輪山の急崖が高森川の源頭にあたり,外輪山の外側は起伏が小さな緩い地形を呈する.高森川の源頭周辺における地質の層序と透水性を示す.表層部には降下火山灰を主体に形成された未固結の土層(ah)が分布し,一部に透水性が良好な降下軽石層が狭在するものの,全体的には細粒土で構成されて透水性がやや低い判断された.この下位には,Aso-4火砕流堆積物(Aso-4)があり,下部は弱く溶結しているが,全体的には溶結度が高く節理や割れ目が発達していることから透水性が高いと推測される.Aso-4の下位には,火山角礫岩や火山礫凝灰岩を主体とした未固結状態の間隙堆積物(Aso-4/3)を確認し,間隙の少ない締まった地層でいずれの調査時も地下水がしみ出している様子から,透水性が低く,地下水が滞留しやすい場所と考えられる.Aso-4/3の下位には,非溶結の軟岩であるAso-3火砕流堆積物(Aso-3)が分布し,節理や割れ目がないことから透水性は極めて低いと推測した.

 地盤比抵抗の測定は,ドローンを用いた時間領域電磁探査法(TDEM)によって,2020年8月24日(ρ1)および2020年11月26日(ρ2)に同じ測線に対して実施した.測定前の先行降水量を整理した上で,地盤比抵抗の変化率(=(ρ2-ρ1)/ρ1)[%]と地盤の透水性との対応を確認した.また,調査地のAso-4/3と渓流水を採取し,定温乾燥機によって強制乾燥させた攪乱試料をアクリル容器に密度調整して供試体を作成した.供試体の電流・電圧を計測することで地盤比抵抗を室内測定した.飽和度は自然含水比(70%)と飽和状態(90%)の2種類を条件とし,水質は現地採水した渓流水(17.8mS/m),純水を用いた疑似雨水(2.5~2.8mS/m),KClによる電解質調整純水を用いた疑似渓流水(9.2~20.2mS/m),疑似地下水(51.4mS/m)を条件に設定した8ケースの地盤比抵抗を測定した.

 まず,アメダス高森によると,ρ1の先行降水量は3日間26.0㎜,7日間26.0㎜,20日間30.0㎜,40日間154.5㎜,60日間1,064.5㎜であった.一方,ρ2の先行降水量は3日間0.0㎜,7日間55.5㎜,20日間81.0㎜,40日間167.0㎜,60日間174.0㎜であった.すなわち,ρ1は直近および長期的な先行降水量の影響が大きく,ρ2は3~20日程度前の先行降水量の影響が大きい.次に,調査地の地盤比抵抗は,ahは+10~+20%,Aso-4は-10~-20%,Aso-4/3は+20~+50%,Aso-3は-10~+10%程度の変化率を示した.一定の透水性があると推測された地盤では変化がみられたが,透水性が極めて低いと推測されたAso-3では変化が小さかった.さらに,室内測定の結果,Aso-4/3の地盤比抵抗は,次のような変化率を示した.飽和度が20%上昇すると-25.6~-27.0%,飽和度が20%低下すると+34.5~+37.0%.疑似雨水から疑似渓流水に変化すると-34.5~-36.2%,疑似渓流水から疑似雨水に変化すると+56.0~+56.8%.疑似渓流水から疑似地下水に変化すると-26.0~-27.0%,疑似地下水から疑似渓流水に変化すると+35.1~+37.0%.また,現地で採取した渓流水についても同様の傾向を示すことを確認した.以上の結果について,測定誤差等の影響を含んでいる可能性があるものの,透水性が高い地盤周辺では明瞭な地盤比抵抗の変化があったことから,先行降水量が異なる地盤比抵抗の比較結果は間隙水の変化を反映していると考えられる.さらに,室内測定の結果,飽和度ならびに水質についても地盤比抵抗の変化に影響する可能性があることが示された.特に,雨水と渓流水の水質間で変化が大きいことから,雨水の涵養による影響に対して明瞭な変化が現れることが予想される.したがって,今回得られた知見は,地盤比抵抗の変化から帯水層の分布を把握する等,水理地質構造の推定に活用できる可能性が示唆される.