日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、座長:内田 太郎(筑波大学)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

16:20 〜 16:35

[HDS10-10] 山岳氷河の氷河崩壊に伴う谷底環境の変化と災害 -ヒマラヤ山脈2003,04,21年の事例を中心に-

*小森 次郎1 (1.帝京平成大学)

キーワード:懸垂氷河、雪渓、トルキスタン型氷河、地球温暖化、2021年ウッターラカンド洪水、2003,2004マディ川洪水

2021年2月7日の朝,インド・ウッタラーカンド州チャモリ地方のRishi Ganga川(Ganges川流域の北東側流域をなすAlaknanda水系のBurahi Ganga川の支流)では,流域のライニ村から下流にかけて洪水が発生した.これによって,死者・行方不明者190人以上(2月10日現在)のほか,主な物的被害としてRishi Ganga水力発電所(13.2 MW.取水位置の標高 2050 m.氷河崩壊した谷底から12 km)とTapovan Vishnugad水力発電所(520 MW. 取水施設の標高1800 m.氷河崩壊した谷底から20 km)が流失した.

この事象は当初,氷河湖決壊洪水の可能性も指摘されたが,原因は面積0.2平方kmの懸垂氷河からの氷河崩壊(Twitter,@Scott Watson https://bit.ly/3rHlPWu),およびその基盤を成す斜面の岩盤崩壊(Twitter,@Simon Gascoin https://bit.ly/3s4R3qM ; 檜垣ほか,2021.地理学会災害対応委員会Webサイトhttps://bit.ly/3av8kTR)であることがわかってきた.また,この懸垂氷河(分布標高約6000~5500 m)の斜面の谷底(N 30.401, E 79.738.EL. 3800 m)には岩屑に覆われた堆積物が細長く分布しており,陥没や割れ目の入りかたから内部には氷体の存在が予想される.この雪渓状の氷体は遅くとも2003年には谷底にそって連続的に存在し,Google Earthの最新の衛星画像が確認できる2017年10月まで消長を繰り返していることがわかっている(小森,2021.地理学会災害対応委員会Webサイトhttps://bit.ly/3dmH23Q).特に2013年から2014年6月,および2015年5月から2017年10月までの二つの期間には,それ以前の氷体と比べて1 km以上長い分布となっている.このことは,今回の崩壊よりも規模は小さいとしても,この懸垂氷河周辺からの崩壊が過去にも繰り返されていたことを示している.

本発表ではこの災害の概要と発生源である氷河の崩壊履歴に関する検討結果を示す.さらに,2003年と2004年にネパール・アンナプルナ山塊南東部で発生した氷河崩壊と洪水との比較,および同様の氷河崩壊(例えば,2002年カフカス山脈北麓Kolka氷河,2012年カラコルム山脈パキスタン側南麓Gayari氷河など)が谷底にどのような変化をもたらすかについて報告する.

現地では救出作業が続いている.一人でも多くの方のご無事と犠牲者のご冥福を心からお祈りいたします.