日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、座長:内田 太郎(筑波大学)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

16:35 〜 16:50

[HDS10-11] ヒマラヤ山脈で発生する突発的地形変化に伴う斜面災害の特徴

*八木 浩司1、檜垣 大助2、鄒 青穎3、若井 明彦4、山本 優介5 (1.山形大学地域教育文化学部、2.日本工営(株)、3.弘前大学農学生命科学部、4.群馬大学大学院理工学府、5.地層科学研究所)

キーワード:岩盤すべり、岩屑なだれ、ロックフラワー、土石流

2021年2月7日インド・ウッタラ-カンド州クマール・ヒマラヤにおいて突発的な土石流が発生し建設中の水力発電所になだれ込み百名以上の犠牲者・行方不明者を出した.この土石流は60km以上流下した.
 当初この災害は氷河湖決壊や氷河崩壊によるものと報道されていた.しかし,2021年2月7日に撮影されたPlanet Lab.による衛星画像の比較では, 標高3,000m以上に面的に積雪が見られるが, Rishiganga川のとくに左岸側の斜面は, 河道中央から幅最大約1000m, 比高400~500mの範囲が,河道沿いに茶褐色なっており, これは前日には無かったものである(Doman & Shatoba,2021).このような雪面を覆う茶褐色のカバーは, 岩盤崩壊/地すべりとそれに引き続く岩屑なだれに伴って発生するロックフラワーである.同様の現象は2012年5月にネパール・ヒマラヤ,アンナプルナⅣ峰西壁が崩壊したときにロックフラワーや地響きを発生させながら最終的に土石流となって50km以上流下し,山麓のポカラまで到達している(大井ほか,2012).2015年ゴルカ地震時のランタン氷河・岩石崩壊においても,ロックフラワーが発生し岩屑なだれや雪崩が引き起こした圧縮波としての爆風に飛ばされたものが樹幹に張り付くように残されていた(八木,2017).衛星画像から明らかにされた崩壊源は,Nanda Ghunti峰(6309m)から東方に延びる稜線肩の北側斜面(標高5200-5600m付近)である(Doman & Shatoba,2021).崩落源から本流との合流点付近の河床までの標高は約1800mで,平均勾配は34度と急傾斜である.崩落した岩盤は雪や氷を巻き込みながら岩屑雪崩として高速で流れ下ったものと考えられる.さらに標高3000m以下で土石流と変質し,途中の支流に逆流して河道閉塞を起こしては崩壊しながら流下している.
 以上のようにヒマラヤ地域の主稜線部で発生する岩盤地すべりは,ロックフラワーを発生させながら長距離を移動する特徴があり,突発な地形変化をもたらせて来たものと考えられる.ネパール・ヒマラヤのマルシャンディ川流域では,ヒマラヤの北側地域であるマナン地域を中心に大規模地すべり地形や地すべりダムの痕跡が存在すると共に,山脈南部のミッドランド地域には厚い土石流堆積物からなる最終氷期の堆積段丘が広く残されている.本稿では,2021年ウッタラ−カンド州での地変とネパール・ヒマラヤでの事例をともに紹介する.

引用文献
Doman, M. & Shatoba, K.(2021) https://mobile.abc.net.au/news/2021-02-11/satellites-capture-scale-of-indian-glacier-collapse/13137924?nw=0&pfmredir=sm&fbclid=IwAR2_rdkQ7NTeb2p2zkhh7nnNqTfuKbfV9CC13hEgo8UlqMA8iQeqqcbQ5rQ
八木浩司(2015年)地理,62(9),14−21.
大井英臣・檜垣大助・八木浩司・臼杵伸浩・吉野弘祐(2012)砂防学会誌,65(3),56−59.