日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] 自然資源・環境の利用と管理:地球科学と社会科学の対話

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.11

コンビーナ:上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、古市 剛久(森林総合研究所)、佐々木 達(宮城教育大学)

17:15 〜 18:30

[HGG01-P02] 白山市で吹走する「白山おろし」の実態と住人の認識について

池田 英助1、*青木 賢人2 (1.金沢大学大学院地域創造学専攻、2.金沢大学地域創造学類)

キーワード:白山おろし、おろし風、フェーン現象、山谷風、気象観測、アンケート調査

【はじめに】

 石川県白山市では「白山おろし」と呼ばれる風が吹走していることが知られている.白峰地域では春と秋に吹く強風として,鶴来および鳥越地域周辺では夏の冷涼な風として知られている.異なる地域で性質の違う「白山おろし」という同一名称の風が吹走しているが,いずれの「白山おろし」も理学的な調査は行われておらず実態は解明されていない.また住民の「白山おろし」に対する認識も明らかになっていない.そこで気象観測および住民認識等を調べるアンケート調査により「白山おろし」の考察を行なった.

【気象観測および分析】
 白峰地域にAWS(Vantage Pro2, DAVIS製)を2020年3月~11月の期間設置し1分間ごとのデータが得られるように設定し観測を行った.瞬間風速15.0m/s以上の風を強風発生日時とし抽出し,この強風が発生した要因をAWSのデータ,AMeDAS観測所のデータおよび地上天気図を用いて検討した.2020年4月20日6時前,9月7日8時前に瞬間風速15.0m/s以上の南東の風を観測した.4月20日の9時の天気図を確認すると低気圧が日本海と太平洋沿岸にあり, 9月7日9時の天気図では台風10号が九州西海上を北上していた. AMeDASのデータから強風発生時にはいずれも風上側の地域で降水が確認でき,岐阜県北西部で南東の風が確認された.また白峰に設置したAWSのデータを用いて10分ごとの気温および10分間の平均風速の値を作成し,強風発生時前後の変化を分析した.強風が発生した4月20日6時,9月7日8時前後では平均風速の値が上昇するにつれ気温の上昇がみられた.これらのことから白峰地域で観測された強風は低気圧・台風に向かって吹く南寄りの風が両白山地の山脈を越し,それが山岳にそって吹きおろすフェーン現象を引き起こすものであり,この両白山地の山脈から吹き降ろすフェーンの強風が白峰地域での「白山おろし」であると推察される.
 鶴来地域にAWS(Vantage Pro2)を2020年8月~11月の期間設置し1分間ごとのデータが得られるように設定し観測を行った.鶴来地域で吹走する「白山おろし」は言われている特徴から山風の発生によるものであると推定される.山風は熱的局地循環が生じやすい晴天日に顕著によくみられる現象である.そこで観測期間中に晴の日が続いた8月18日~8月21日の期間に注目して分析を行った.分析には,鶴来地域に設置したAWSのデータから10分ごとの気温および10分間の風速の平均値,最多風向のデータを作成したもの,および周辺のAMeDASのデータを用いた.鶴来地域のデータでは対象期間中の夜間に南東・南南東の一定の方向を示す4m前後の風が吹走し,周辺のAMeDASで観測されている風とは異なる風系が確認された.白山河内の夜間の気温が他の観測点よりも低い値を示しており,夜間の放射冷却によって谷間に冷気が蓄積していたことが推察される.この冷気が谷間を通り,谷の出口から流出することで発生する山風が鶴来地域での「白山おろし」であると考えられる.

【住民による白山おろしの認識】
 「白山おろし」の認識や活用の実態などを明らかにするために白山市の住人を対象にアンケート調査を行なった.アンケートは事前の調査から吹走していると思われる地域を選定し配布した.手取川扇状地の谷口~平野部にかけての地域をA地区,谷内の鳥越地域をB地区,深瀬・桑島・白峰をC地区としてそれぞれ集計し認識等の違いを調査した.「白山おろし」の風を「知っている」・「聞いた事はあるが詳しくは知らない」と答えた人はA地区,B地区で5割を超え,ある程度認識されている風であることが確認されたが,C地区では2割程度の認識しかなかった.また「白山おろし」の利用・恩恵,被害,対策について確認したところ,A地区では冷涼な山風を農業等へ活用していること,B地区ではA地区同様の農業等への利用および春期に発生する強風での農業ハウスへの被害・対策に関する回答がよくみられたが,C地区では利用・被害や対策について答える回答がほとんどみられなかった.これらのことから「白山おろし」に対する利用・被害・対策についての何かしらの要素があればその地域ごとの「白山おろし」の風を住人が認識するということが考えられる.
 このように差異が生まれるのは,鶴来地域および鳥越地域で認識されている山風の「白山おろし」は日射があり静穏日であれば比較的発生しやすい風である一方,山岳から吹き降ろす強風の「白山おろし」は発生頻度が高くないこと,また時代の変化により家屋の耐風設計がまし強風の「白山おろし」を特別視して対処する必要がなくなり,認識が希薄化したこと,白峰地域は谷が狭く農地利用があまりされていないことから強風の被害を受けやすい農業ハウスが少ないことが要因として挙げられる.