日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

2021年6月4日(金) 09:00 〜 10:30 Ch.14 (Zoom会場14)

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、座長:八反地 剛(筑波大学生命環境系)

09:30 〜 09:45

[HGM03-03] 地形発達実験における定常状態と限界斜面について

*大内 俊二

キーワード:地形発達実験、定常状態、透水性、流水侵食、斜面崩壊、限界斜面

隆起と降雨侵食による地形発達実験は、多くの場合、最終的には隆起と侵食が釣り合って表面高度と地形が安定する定常状態に至ることが知られている。この定常状態に至る過程は、谷系発達期(第1期)、山地成長期(第2期)、動的平衡期(第3期)の3つに分けることができる。第1期は流水侵食による谷の発達が侵食の中心であり、侵食より隆起が上回って隆起より少し遅い速度で地表面が上昇する。谷系の発達は第2期に続くが、ここでは斜面が成長して斜面崩壊が起こるようになる。崩壊によって産出された物質は流水によって谷系を通って速やかに排出され、起伏の増大(山地の成長)とともに侵食速度が増加して地表の上昇速度が次第に低下していく。第3期になると地表面の継続的な上昇は停止し、隆起域の平均高度がある高さを中心に上下を繰り返すようになるとともに類似の地形が長期にわたって保たれるようになる。
 今回の報告の中心となる同じ隆起速度(0.36 mm/h、960時間)と異なる降雨強度(40-50、80-90 mm/h)を用いた2回の実験も、ほぼ同様の過程をたどって定常状態に至った。降雨強度の違いによって比較的高い山塊と低い分離した山地の違いはあったものの、第3期における隆起域平均高度の変化曲線がどちらも鋸歯状を示し、定常地形の維持が同様のプロセスによるものと推定できた。隆起域平均高度の急激な低下とそれに続く緩慢な上昇は、多くの斜面が何らかの限界に達している状態において起こる大規模崩壊の集中的発生(地形計測後の降雨再開を引き金とすることがほとんどである。)による地表高度の急低下とそれに続く隆起と限定的な斜面崩壊および流水侵食による緩慢な上昇を反映したものである。第3期を通してこの過程が繰り返され、地表面の平均高度と類似地形が保持されると考えることができた。このような説明は、実験山地地形の発達について隆起山脈の発達における限界斜面の概念があてはまることを示している。格子勾配(DEMの1格子内4点のうち2点を結ぶ直線の最大勾配、cell slope。この格子の勾配を表すと考える。)のうち実験に用いられた物質(細砂とカオリナイト重量比10:1の混合物)の乾燥安息角(約34°)以上の平均値(平均急斜面勾配、average cell slope of steeper cluster)が隆起域全体の斜面の崩壊しやすさを表すと考え、その値を時間的変化のグラフとすると、変化曲線がやはり鋸歯状を示すだけでなく、降雨強度やそれに由来する地形が異なるにもかかわらず第3期におけるすべての値が45°- 54°の狭い範囲に入ることが分かった。45°- 54°の斜面傾斜がこの2回の実験で使用した物質による限界斜面を示していると考えることができるのではないだろうか。同様の物質を用いた他の11回の実験結果でも、平均急斜面勾配が、隆起速度、降雨強度、堆積域の幅、透水性などが異なるにもかかわらず第3期(あるいは斜面崩壊が侵食の主要因となってから)にはすべて45°- 60°の範囲に入ることが分かった。平均急斜面勾配45°- 60°が、一連の実験で用いられた物質(細砂とカオリナイトの重量比10:1の混合物)特有の限界斜面を示しているとも言えよう。斜面勾配の平均値で限界斜面を表すことはあまり適切ではないかもしれないが、一定の広さの区域全体を考えた場合、ある特定の斜面勾配をもって限界斜面とするよりは現実的・実際的である。個々の斜面の状態(高さ、形状、浸透水の状態など)はそれぞれに異なっていると考えられるし、崩壊の引き金となる現象の強度や性質も時によって異なると考えられるからである。起伏の発達とともに平均急斜面勾配が増大して限界斜面の範囲に入ると、何らかの引き金現象によって斜面崩壊の集中発生が起こる可能性が出てくる。そして、平均急斜面勾配が上限の値(一連の実験においては約60°)に向かって大きくなっていくとともに斜面崩壊集中発生の可能性、あるいは頻度、が増大していくことになる。そして、平均急斜面勾配が上限に達するころには、弱い引き金現象であっても斜面崩壊の集中発生が引き起こされると考えてよいのではないだろうか。