日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:15 Ch.14 (Zoom会場14)

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、座長:瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)

10:45 〜 11:00

[HGM03-07] 斜面スケールでのCs・土砂移動に影響を与えるマイクロテラセット構造の解析

*藤原 成悟1、恩田 裕一2、脇山 義史3、安西 俊晃4、加藤 弘亮2 (1.筑波大学大学院生命地球科学研究群地球科学学位プログラム、2.筑波大学アイソトープ環境動態研究センター、3.福島大学環境放射能研究所、4.筑波大学生命環境学群)

キーワード:土壌侵食、地表面変化、UAV-SfM、Cs-137、除染活動

福島県川俣町は、2011年に発生した福島第一原子力発電所事故の影響で特別除染地域に設定され、2014年に除染活動が行われた。除染活動では、Cs-137濃度の高い表層5cmの土壌が、重機によりはぎ取られ、粒径の粗い花崗岩質の山砂が客土された。除染地では、強い降雨の際に階段状のマイクロテラセット構造が多く観察された。さらに、除染地は除染前と比較し土砂流出量が減少している。このように、土砂移動に影響を与えていると考えられるマイクロテラセット構造は解明する必要がある。

本研究は、福島県内の除染地である福島県川俣町山木屋地区と未除染地の福島県月舘市のUSLE型プロット(長さ22.13 m × 幅5 m)と降雨実験で、Cs-137・土砂流出観測・地表面変化・RFID (Radio Frequency IDentification)タグの観測により、プロットスケールでのCs-137・土砂移動プロセスの解明を目的とする。プロットの下端で表面流出・土砂流出の観測をおこない、Cs-137濃度と土砂流出量を測定した。地表面変化はUnmanned Aerial Vehicle – Structure from Motion (UAV-SfM) によって得られた3Dデータから計算した。また、RFIDタグを用いた粒径の異なる土砂移動距離から表面流の掃流力の推定を行った。さらに、未除染地プロットではマイクロテラセット構造域のスクレーパプレート調査を実施し、Cs-137の深度分布による土砂移動とCs-137流出の関係について解析をおこなった。

現地試験における地表面変化図の精度は、レーザー測量と比較し、幾何平均誤差が0.1cmとなり、標準偏差誤差が0.3cmとなった。地表面変化からは大きな降雨イベントの際にリル侵食域の上部にマイクロテラセット構造が見られ、その際に大きな土砂流出が確認された。また、除染プロットと未除染プロットのどちらにおいてもマイクロテラセット構造は形成された。マイクロテラセット構造の形成条件は、降雨強度が5 – 20 mm/hr、流量は350 L/hr以上であった。

降雨実験では、勾配5°の農耕地と山砂プロットで、総水土砂流出量が大きく異なった。勾配5°のプロットにおいて総流出水量は農耕地プロットで多かったが、総土砂流出量は山砂プロットのほうが多かった。勾配7°のプロットでも、総流出水量はほぼ同量であったが、総土砂流出量は山砂プロットで多かった。このため、平均流出土砂濃度は農耕地プロットよりも山砂プロットで大きな値となった。しかし土砂濃度の時系列変化を比較すると、農耕地プロットでは実験開始時に最大値となりその後は低下していった。一方で、山砂プロットでは開始時には低い値であり、ある程度時間が経過した後に最大となった。
ドローンを用いたUAV-SfM測量とRFIDタグからは、地表面変化図と土壌粒子の輸送距離の取得を行った。RFIDタグは、中央値が2.8 mmである粒径が小さいものと、中央値が3.9 mmである粒径が大きいものの2種類を使用した。斜面長と勾配が同じで、RFID タグを置いた位置の斜面上端からの距離も同じである勾配5°の農耕地と山砂プロットで比較すると、地表面変化は山砂プロットの下端で侵食が顕著であり、リル侵食が生じていた。農耕地プロットでは、山砂プロットのようなリル侵食は生じなかったが、斜面上部まで浅い侵食が生じた。また斜面上部に置いたRFID タグの動きを比較すると、農耕地プロットではRFID タグの移動距離が長く表面流が斜面上部でも生じていたと考えられる。
細かい侵食域を表す地表面変化とテラセット構造が示された領域を見ると、テラセット構造は、インターリル域(上部)とリル域(下部)の中間部に形成されるものと示された。さらに、山砂プロットより農耕土プロットに広い範囲で、テラセット構造が形成されていた。くわえて、130 mm/hr以上の降雨強度でテラセット構造は形成された。

以上より、降雨実験から山砂プロットでは土砂流出の寄与域が線状である一方、農耕土では寄与域が面的である可能性が示唆された。さらに、テラセット構造は、傾斜が5°以上・降雨強度130 mm/hrより大きい場合に形成されやすく、砂質土壌である山砂プロットより農耕土壌である農耕プロットに広い範囲で形成されやすいと示された。また、テラセット構造はインターリル域(上部)とリル域(下部)の中間部に形成されるものと示された。くわえて、現地試験から、テラセット構造は弱い降雨強度でも形成される一方、一定以上の流量が必要であった。