11:15 〜 11:30
[HGM03-09] 宇宙線生成核種による花崗岩流域斜面の状態遷移過程の復元:滋賀県・田上山地における人為的侵食加速の定量的評価
キーワード:自然地理学、人為的環境攪乱、土層持続性の転換点、宇宙線生成核種、放射性炭素年代測定
本研究では,いわゆるハゲ山のように,人為影響によって斜面の被覆状態が遷移する過程に削剥された土砂量を定量化するために,土層および植生の状態が異なる花崗岩流域から採取した渓流堆砂中の10Be濃度を分析した.さらに,山麓低地で採取したボーリングコアを対象に堆積物中の10Be濃度分析および埋没有機物の14C年代測定を実施し,流域出口近傍の堆積場での土砂供給履歴の復元を試みた.
研究対象とした滋賀県・田上山地の流域は,土層および植生の状態から,森林流域(森林が成立し,土層に覆われる流域),森林再生流域(人為影響の痕跡が認められるが1950年代ごろまでに森林の再生があった流域),荒廃裸地流域(森林が消失し,土層が完全に流亡した履歴をもつ流域)の3つの型に区分される.森林流域の渓流堆砂中の10Be濃度は4.8×104 atoms g-1–8.9×104 atoms g-1であり,流域の空間平均削剥速度を求めると1.4×102–2.6×102 g m-2 yr-1になる.一方,森林再生流域と荒廃裸地流域の渓流堆砂中の10Be濃度は1.9×104 atoms g-1–4.0×104 atoms g-1と相対的に小さい.ひとたび人為影響を受けて流域が完全に裸地化してしまえば,102–103年程度では渓流堆砂の10Be濃度は元の状態に回復できない.森林再生流域と荒廃裸地流域において10Be濃度が小さくなるのは,斜面が裸地化する過程に0.57±0.14 mから2.04±0.31 mに相当する厚みの土砂が流域全体から流亡し,サプロライトが直接削剥される状態へと遷移したためであると考えられる.
田上山地西面の天神川流域の出口近傍には,流域の裸地化に伴って斜面から加速的に流亡した土砂が広く分布し,河床を埋積している.この地点で掘削した河床埋積堆積物中の10Be濃度は,ボーリングコアの基底(2723–2490 cal BP)から918–793 cal BPの層準付近まで森林流域の渓流堆砂に相当する濃度(5.8×104 atoms g-1)であり,それより上位になると荒廃裸地流域の渓流堆砂に相当する濃度(2.6×104 atoms g-1)へと低減する.堆積物の10Be濃度の低減過程には,濃度が大きくなる方向に戻るような層準を繰り返し挟んでおり,下位の層準よりも古い年代値を示す炭化物(3000–2426 cal BP, 4289– 4091 cal BP)が介在する.ひとたび裸地斜面があらわれるようになると,冬期の凍結破砕によってサプロライト上面から生産された土砂が降雨のたびに表面流出によって侵食され,堆積物中の10Be濃度は小さくなる.他方,流域内に残存していた土層が豪雨時の侵食よって流出すれば,堆積物中の10Be濃度が一時的に大きくなり,土層中に埋没していた炭化物も低地に再移動・堆積するだろう.ボーリングコアの10Be濃度の深度変化は,植生回復が追いつかなくなるほど過度に森林資源を収奪し続けて山地斜面の樹冠や被覆層が消失すると,元の状態へと戻ることができなくなるような転換点が存在することを示唆する.
研究対象とした滋賀県・田上山地の流域は,土層および植生の状態から,森林流域(森林が成立し,土層に覆われる流域),森林再生流域(人為影響の痕跡が認められるが1950年代ごろまでに森林の再生があった流域),荒廃裸地流域(森林が消失し,土層が完全に流亡した履歴をもつ流域)の3つの型に区分される.森林流域の渓流堆砂中の10Be濃度は4.8×104 atoms g-1–8.9×104 atoms g-1であり,流域の空間平均削剥速度を求めると1.4×102–2.6×102 g m-2 yr-1になる.一方,森林再生流域と荒廃裸地流域の渓流堆砂中の10Be濃度は1.9×104 atoms g-1–4.0×104 atoms g-1と相対的に小さい.ひとたび人為影響を受けて流域が完全に裸地化してしまえば,102–103年程度では渓流堆砂の10Be濃度は元の状態に回復できない.森林再生流域と荒廃裸地流域において10Be濃度が小さくなるのは,斜面が裸地化する過程に0.57±0.14 mから2.04±0.31 mに相当する厚みの土砂が流域全体から流亡し,サプロライトが直接削剥される状態へと遷移したためであると考えられる.
田上山地西面の天神川流域の出口近傍には,流域の裸地化に伴って斜面から加速的に流亡した土砂が広く分布し,河床を埋積している.この地点で掘削した河床埋積堆積物中の10Be濃度は,ボーリングコアの基底(2723–2490 cal BP)から918–793 cal BPの層準付近まで森林流域の渓流堆砂に相当する濃度(5.8×104 atoms g-1)であり,それより上位になると荒廃裸地流域の渓流堆砂に相当する濃度(2.6×104 atoms g-1)へと低減する.堆積物の10Be濃度の低減過程には,濃度が大きくなる方向に戻るような層準を繰り返し挟んでおり,下位の層準よりも古い年代値を示す炭化物(3000–2426 cal BP, 4289– 4091 cal BP)が介在する.ひとたび裸地斜面があらわれるようになると,冬期の凍結破砕によってサプロライト上面から生産された土砂が降雨のたびに表面流出によって侵食され,堆積物中の10Be濃度は小さくなる.他方,流域内に残存していた土層が豪雨時の侵食よって流出すれば,堆積物中の10Be濃度が一時的に大きくなり,土層中に埋没していた炭化物も低地に再移動・堆積するだろう.ボーリングコアの10Be濃度の深度変化は,植生回復が追いつかなくなるほど過度に森林資源を収奪し続けて山地斜面の樹冠や被覆層が消失すると,元の状態へと戻ることができなくなるような転換点が存在することを示唆する.