日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:15 Ch.14 (Zoom会場14)

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、座長:瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)

11:45 〜 12:00

[HGM03-11] モンゴル、オルゴイ湖古汀線トレンチ試料の分析と古環境推定

*渋谷 侑磨1 (1.金沢大学)

1.はじめに

 近年、地球温暖化によって様々の気候変動が進んでいるといわれている。今後どのように気候が変動するかを予測するために過去の気候変動を知ることは重要なことである。そのため世界各地で古環境の研究が行われている。

 古環境の研究で注目を浴びているのがモンゴルである。モンゴルでは急速な気候変動の影響を強く受け過去30年で多くの湖と河川が枯渇し、現在国土の約90%が砂漠化したと見なす見解もある(Batjargal 1997)。また、モンゴルはシベリア高気圧、偏西風、東アジア夏季モンスーンの気候システムに支配されている(An et al.2008)。このようなことからモンゴルの古環境変動を理解することは、これからのモンゴルの環境変動を予測することに加えて、中央アジアの気候システムを知る上でも重要である。しかしながら、特にモンゴル南部での古環境の研究は散在しているのが現状である(Grunert et al. 2018、Lehmkuhl et al. 2018)。そのため、この地域での古環境をより詳しく研究する必要がある。

 モンゴルは、大陸性気候のため、降水量は非常に少ないが、山脈に挟まれた盆地には湖が多数形成されている。これらは、”Valley of the Lakes”と呼ばれ、北西部の大きな湖がある盆地”Valley of the Great Lakes”と南部の”Valley of the Gobi Lakes”からなる。これらの湖は多くの古汀線を有し(Komatsu et al. 2001)、過去に激しい水位変動を繰り返していたことを示している。本研究では南部の”Valley of the Gobi Lakes”に含まれるOlgoy湖を研究地域とし、古汀線をトレンチして得た湖沼堆積物の分析を行った。

湖沼堆積物は流入河川や湖内の生産性,大気からの降下物による環境変動を記録しており、その分析によって過去の気候条件やその年代等の情報の獲得が期待できる(例:BDP-98 Members,2001; BDP-99 Baikal Drilling Project Members 2005; Gunten et al. 2009; Kashiwaya et al. 2010など)。得られた分析結果をOlgoy湖から採取した長尺コアや標高の異なる古汀線トレンチ試料の結果(三寳2018、Uyangaa et al. 2020)と比較し古環境を推定した。また、長尺コアで行われた光励起ルミネッセンス年代測定(OSL)の年代とトレンチ試料のOSL年代に基づき、対応する堆積物の比較を行った。その後、長尺コアのOSL年代測定値と信頼度が高いといわれている炭素年代測定の結果の関係を採用して、トレンチ試料の堆積年代を見積もった。

2.調査地域

 図①は本研究の調査地域であるOlgoy湖と試料採掘場所を結んだ線の断面図である。本研究で分析したのは両端のOL3とOL6の地点から得られた試料である。両地点では、古汀線をトレンチして地表から5cmずつの深さで区切って試料を採取した。OL3については地表から深さ85cnまでで17個、OL6については地表から深さ50cmまでで10個の試料が得られている。

また、図①に示されているoutcrop2&3、long coreはそれぞれ三寳(2018)、Uyangaa et al.( 2020)で議論された試料の採集地点である。

3.分析

 本研究では含水率(%)、有機物の量(%)、炭酸塩含有量(%)、バイオジェニックシリカ含有量(%)、全粒の粒子径(Φ)、鉱物の粒子径(Φ)の測定を行った。

 また、OSL年代測定によって堆積年代を推定し、長尺コアのOSL年代測定結果、炭素年代測定結果と比較した。

4.結果と考察

 図①の断面図を見て分かるようにOL3、OL6はこれまで研究された場所よりも標高が高く湖水位が高かった時期に堆積されたものである。そのためoutcrop2&3(三寳2018)で分析された試料よりも古く、long core (Uyangaa et al. 2020)のより下部に対比されると考えられる。

OL3とOL6の柱状図と化学分析の結果を図②、図③に示す。

OL3ではシルト層と礫混じりシルト層が交互に堆積している。分析結果をLong coreの分析値と比較してみると280cm深に対比できる可能性があることが分かった。三寳(2018)が分析したトレンチ試料で見られた炭酸塩のピークはLong coreの260cm付近と対比しており、本研究で分析した試料はそれより古い時期に堆積されたものである。炭素年代測定の結果(五十嵐 修論)と比較すると約14000年前にここまで湖が広がっていたと考えることができる。
OL6では砂質の層と、それより下部のシルト質の層により分かれている。砂質の層の色は黄色がかっており上位に行くほど粒径がより細かくなることから風成堆積物であると考えられる。また、下部のシルト層は分析結果からLong coreの850cm部分に対比できる可能性がある。