日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR04] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.09

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)

17:15 〜 18:30

[HQR04-P02] 北海道東部根釧台地茶内地域の小規模湿原における完新世の湿地堆積環境の変遷

*常岡 廉1、横山 祐典1、近藤 玲介1、太田 耕輔1、横地 穣2、金子 和広3、冨士田 裕子4、井上 京5、紀藤 典夫6、隅田 まり7、植村 杏太8、宮入 陽介1、百原 新9 (1.東京大学大気海洋研究所、2.北海道大学 大学院国際食資源学院、3.北海道大学 大学院農学院、4.北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター、5.北海道大学 大学院農学研究院、6.北海道教育大学 函館校 国際地域学科、7.GEOMARヘルムホルツ海洋科学センター、8.日本大学 文理学部、9.千葉大学 園芸学部)


キーワード:湿原・湿地、泥炭、放射性炭素年代測定、元素分析、湿地堆積環境、根釧台地茶内地域

1. はじめに
 北海道東部には日本列島の中でも大規模な泥炭地や現存湿原が集中している.これらの泥炭地や湿原の形成・発達には,海面変動や気候変化が大きく作用している(大平,1995)ため,湿原堆積物の花粉分析や大型植物化石分析による植生史復元の結果などに基づき最終氷期以降の古環境変遷の検討が数多く行われている(たとえば,遠藤ほか,1988).しかし,北海道東部の湿原における古環境変遷に関する既存研究は,主に沿岸の低地湿原が対象とされ,波浪や津波の影響を直接・間接的に受けているため,それらの要因を完全に排除できていない可能性がある.一方で,海水の影響を直接受けない根釧台地上に位置する小規模な沖積低地性の湿原群における古環境変遷史の研究事例は少ないので,沿岸低地の湿原との地理的位置の相違による堆積環境の比較を行うことが必要とされている.
 本地域における既存研究の年代モデルは,テフロクロノロジーや放射性炭素年代測定に基づいて推定されているが,指標テフラや放射性炭素年代測定に有効であるとされる大型植物化石は,湿原堆積物から必ずしも発見されるとは限らない.また,湿原を構成する泥炭や湿地堆積物中には堆積時の植物遺骸に加え,堆積後に上部から混入する根など様々な有機物が含まれる.さらに,泥炭の放射性炭素年代はリザーバー効果による年代のずれを考慮する必要があることが指摘されている(篠崎,2013).一方で,近年は堆積物中の花粉化石が正しい放射性炭素年代を示すことが報告されている(たとえば,Brown et al., 1992).
 そこで,本研究では,根釧台地南部,茶内地域の湿原において,堆積物中に含まれる花粉化石の放射性炭素年代測定に基づいた年代モデルの作成を試みるとともに,堆積物の元素分析により有機物の起源や分解速度などの本湿原の堆積環境について高分解能に明らかにすることを目的とする.

2.対象地域と試料の概要
 研究対象地は北海道浜中町茶内地区の約1 km北に位置し,海成段丘上を流下するオラウンベツ川とその支流のノコベリベツ川の旧河道内に発達した湿原群の一つである.隣接する霧多布湿原や別寒辺牛湿原などの大規模な沿岸低地性の湿原において,完新世の泥炭層序や植生史・堆積環境変遷の研究がなされているので(たとえば,五十嵐,2002; Nanayama et al., 2007),本研究で対象とする台地上の小規模湿原の堆積環境変遷との比較も可能である.本研究では,対象地(北緯43°8′23.3″ 東経145°1’23.5″;標高49.2 m)において2020年にシンウォールコアラーによって採取された総長約1ⅿのコア試料を用いた.コア試料は主に様々な分解度の泥炭及び有機質シルトからなり,樽前aテフラ(以下,Ta-a;AD1739),駒ヶ岳c2テフラ(以下,Ko-c2;AD1694),樽前c2テフラ(以下,Ta-c2;約2.5 ka)などの複数のテフラが挟まれる.得られたコア試料中に,本地域で一般的に見いだされる指標テフラである摩周f~jテフラ(約7.7 ka)は認められない.同一地点における検土杖による記載の結果,約1 m以深は,河川性の砂礫層やシルトからなることが確認された.

3. 方法
3.1. 放射性炭素年代測定
 放射性炭素年代測定にあたっては,東京大学大気海洋研究所の加速器質量分析装置を用い,泥炭・有機質シルト試料および含まれる花粉化石を対象試料とし,多点の年代測定を試みた.
3.2. 元素分析
 元素分析にあたっては,東京大学大気海洋研究所の元素分析装置(elementar社製 全自動元素分析装置 vario MICRO cube)を用い,全有機炭素(TOC),全窒素(TN),全硫黄(TS)を測定し,C/N比を算出した.

4. 結果とまとめ
 研究対象地点は,コア試料の河川性堆積物とテフラ層序から約7.5~約2.5 kaの間に湿地・湿原化したと考えられる.
 元素分析の結果,TOCは下位で低く上位で高い傾向にあった.深度-90~-60 cmでは20~40%で,-40~-5 cmでは40~50%で変動し,-36 cmにおいて最大53%であった.TSは下位から上位にかけて緩やかな上昇傾向にあり,基底部で0.3~0.4%,コア上部で0.5~0.8%であった.C/N比は下位で低く上位で高い傾向にあった.-90~-40 cmは14~20程度であり,-40 cm付近で急激な上昇があり,-40 cmより上位は25程度であった.
 一般に,泥炭の分解とともにC/N比は減少することが知られ,泥炭の分解度を反映する指標ともされる(近藤ほか,1997).C/N比からは下位で泥炭の分解度が高く上位で低い傾向が示されており,有機物の分解速度または堆積速度の変化が生じていたと考えられる.放射性炭素年代測定の結果と併せて堆積環境の変遷を更に検討する.