日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR04] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.09

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)

17:15 〜 18:30

[HQR04-P09] 花粉化石を用いた放射性炭素年代測定と第四紀研究への応用の可能性

*山田 圭太郎1、大森 貴之2、北場 育子3、中川 毅3 (1.立命館大学総合科学技術研究機構、2.東京大学総合研究博物館、3.立命館大学古気候学研究センター)

キーワード:放射性炭素、花粉

放射性炭素年代測定は、古環境学、災害科学、考古学などにおいて、重要な年代決定手法の一つである。陸域周辺の堆積物を用いた研究では、主として葉、木片や貝化石などの大型化石が年代測定に使用されてきた。しかしこれらの試料は、堆積物中に含まれないことも多い。また堆積プロセスや堆積後プロセスによっては、これらの試料は年代測定試料として適さない場合も多い。そのため、小型の植物片や微化石などの様々な試料を用いた放射性炭素年代測定の可能性が検討されてきた。
花粉化石はそのうちの一つで、多くの陸域の堆積物に含まれる。花粉化石は、スポロポレニンを主体とする物理化学的に安定な天然のポリマーで構成される。スポロポレニンは約60%の炭素を含む有力な放射性炭素年代測定試料の候補として1990年代から研究がなされてきた。これらの研究によって、花粉化石の放射性炭素年代測定試料としての潜在的な有用性が示されたいっぽうで、広く使われるには至っていない。
普及が進んでいない原因の一つは、堆積物から花粉化石を高純度で抽出することが難しい点にある。堆積物に占める花粉化石の量は非常に少なく、花粉化石を用いて年代測定を行うためには、濃縮を行う必要がある。しかしながら花粉化石の大きさや比重、薬品耐性などは、花粉以外の有機物のそれと大きな差がなく、物理化学処理のみでは単離が難しかった。そこで本研究では、散乱光や蛍光に基づいて個々の粒子を分取することが可能なセルソーターを用いることで、花粉化石の高純度抽出を試みた。
本研究では、福井県水月湖で採取されたSG06コア試料を使用した。SG06コアは過去7万年間にわたる年縞堆積物試料で、生物擾乱の影響は少なく、また多くの層準は、葉化石を用いた約800点の放射性炭素年代測定によって直接的に年代が決定されている。そのため、花粉化石を用いた放射性炭素年代測定の確度を客観的に評価するのに適している。
新たに開発した物理化学処理とセルソーター処理を組み合わせることで、安定的な花粉化石の高純度抽出を実現することができた。抽出された花粉化石は、固形の不純物をほとんど含まない高品質なものだった。抽出可能な花粉化石の大きさはセルソーターの仕様に依存する。そのため、抽出された試料は、スギ属やハンノキ属など直径10-50μm程度の花粉化石を中心に構成され、必ずしも元の花粉組成を反映しない。
抽出された化石花粉に対し、さらに厳重な化学洗浄をほどこし、実際に放射性炭素年代測定をおこなったところ、花粉の年代値は葉化石を用いた年代値をきわめてよく再現した。この一致は、放射性炭素年代測定の限界に近い約5万年前の層準でも確認できた。本技術によって抽出された花粉化石は、葉化石と同様に、放射性炭素年代測定試料として有用であることが示された。このことは、放射性炭素年代測定に適した大型試料を含まない層準でも、上質な年代値が得られる可能性が開けたことを意味している。
また湖成堆積物からだけでなく、ピートや火山性土壌などからも、本抽出技術を用いることで、花粉化石を抽出できることが確認された。このことは、幅広い環境で堆積した陸域の堆積物の、ほぼ任意の層準の放射性炭素年代を、花粉化石を使って決定できる可能性を示している。戦略的に配置された層準の年代を測定し、ベイズモデルと組み合わせることで、火山灰や津波堆積物などのイベント堆積物の年代をより強く制約できる可能性がある。