日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE12] 資源地質学

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.08

コンビーナ:大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、実松 健造(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 鉱物資源研究グループ)、高橋 亮平(秋田大学大学院国際資源学研究科)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)

17:15 〜 18:30

[HRE12-P02] 古遠部鉱山の層状黄鉱における金銀晶出機構

*鈴木 照洋1、渡辺 寧1、越後 拓也1 (1.秋田大学大学院国際資源学研究科)


キーワード:黒鉱、金銀、熱水、海水

古遠部鉱床において黒鉱鉱床における金銀鉱化作用を解明するうえで重要な鉱石が発見された.本研究ではこの鉱石の形成及び金銀の沈殿プロセスの考察を行う.

本鉱石は層状構造を持ち,この層状構造に対し垂直方向に鉱物の種の分帯がみられる.層状構造に直交する面の顕微鏡及び肉眼観察によってA~Eの5帯が識別された.A帯は斑銅鉱を主とし輝銅鉱,含銀四面銅鉱,輝銀銅鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,閃亜鉛鉱を伴い,また重晶石を主とするレンズを含む.B帯は黄鉄鉱,斑銅鉱を主としレンズ状に黄銅鉱を含む.また方鉛鉱,安四面銅鉱を伴う.C帯は黄鉄鉱,黄銅鉱,斑銅鉱,重晶石を主とし方鉛鉱,閃亜鉛鉱,安四面銅鉱,エレクトラムを伴いB帯から離れるしたがって斑銅鉱の量が減少する.D帯は黄鉄鉱,黄銅鉱,重晶石からなり閃亜鉛鉱,方鉛鉱,安四面銅鉱を伴う.斑銅鉱はほとんど見られない.E帯は重晶石,黄鉄鉱,黄銅鉱からなる.

重晶石及び黄鉄鉱はA帯からE帯に向かって増加する.また斑銅鉱及びCu-S系鉱物はA帯側で多くみられ,黄銅鉱,方鉛鉱及び閃亜鉛鉱はE帯側で多く見られる.

鉱物の晶出順序は各分帯いずれにおいても黄鉄鉱の晶出が最も早く,次いで銅鉱物が晶出し,閃亜鉛鉱,方鉛鉱の晶出が続く.黄銅鉱及び斑銅鉱は産する場が分かれているものの晶出時期に関してほとんど変わらず黄鉄鉱の粒界を充填するように,または黄鉄鉱を交代するように産出する.A帯でのエレクトラムは含銀四面銅鉱と輝銅鉱中に液滴状でみられ,C帯のエレクトラムは黄銅鉱や黄鉄鉱の粒界や空隙を充填するように産する.

鉱石鉱物の産状は,本鉱石は黄鉄鉱が早期に多量,晶出したことを示す.黄鉄鉱がA帯側で少ないのは斑銅鉱及び黄銅鉱によって交代しているためである.そしてA帯側で斑銅鉱及びCu-S系鉱物が多くE帯側で黄銅鉱が多いことはA帯側が,高温高硫黄活量で形成し,E帯側ではA帯にくらべ温度,硫黄活量が低い環境で形成されたためであると考えられる.

以上のことは,本鉱石は黄鉄鉱を主とした空隙に富んだ鉱石が形成し,鉱体が発達し埋没した後も鉱石中の層状に発達した面が熱水の流路となったことを示す.流路の中心(A帯及びB帯)では比較的高温,高硫化的な環境となり,斑銅鉱及び輝銅鉱,輝銀銅鉱が晶出し,その外側C帯では鉱体形成時に取り込まれた海水と熱水が反応し中温,高~中硫化的な環境となり斑銅鉱や黄銅鉱,四面銅鉱が産した.そして熱水の急冷及び硫黄活量の低下によりエレクトラムが先行して晶出した鉱物の粒界を埋めるように沈殿した.さらに外側に拡散した熱水は海水との混合により重晶石と,閃亜鉛鉱及び方鉛鉱が,晶出し鉱石を形成したと考えられる.