日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT14] Geographic Information Systems and Cartography

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.09

コンビーナ:小口 高(東京大学空間情報科学研究センター)、若林 芳樹(東京都立大学大学院都市環境科学研究科)、Yuei-An Liou(National Central University)、C. Ronald Estoque(National Institute for Environmental Studies, Japan)

17:15 〜 18:30

[HTT14-P07] 地方における訪日ツアーの空間的構造―富山県の事例

*于 燕楠1 (1.東京都立大学)

キーワード:インバウンドツーリズム、地方部、ネットワーク分析

インバウンド観光への社会的な関心は2000年代以降,高くなっている.近年では,台湾・中国本土(以下 中国)をはじめとする訪日旅行者が急増している一方,日本国内の各地方において一律に増えているわけではなく,地域間の格差が生じている .都市部に集中しているインバウンド観光を地方の活性化につなげることが重要な課題であり,この課題を解決するためには地方スケールでの具体的な検討が必要であろう.効果的な観光推進のためには,旅行者がどこを訪問したか,特に詳細な市町村単位の流動を把握する必要がある.この詳細な流動を把握する手段として,ウェブ上の情報を自動的に取得するプログラムにより,訪問実態を地図化することが可能となりつつある.
 対象地域としては富山県を選んだ.同県は地方部に位置し,立山黒部をはじめとする優れた観光資源に恵まれている.また,2019年の観光庁「訪日外国人消費動向調査」によると,各都道府県を訪れるインバウンド旅行者のうち,団体ツアーで訪れる旅行者の割合が全国2位と高い県である.本稿は,訪日市場の半数近くを占める台湾と中国をターゲットにし,台湾と中国の主な旅行会社のHPに掲載された2019年1年間の旅行商品をクローラで収集し,富山県に訪問する台湾発389件,中国発258件のツアーにおける目的地とその流動ネットワークを地図化した.
 分析は目的地と周遊ルートの観点から行った.市町村別に集計した結果,台湾のツアーにおける訪問地が80箇所と多いのに対し,中国のツアーは44箇所と旅行範囲が比較的限定されている.特に台湾のツアーには,富山県朝日町や新潟県糸魚川市などの中小都市の多いことが顕著である.そして,台中ともに白川村と金沢市が,流動のハブとしての役割を果たしていることも分かった.そして,目的地を繋ぐ周遊ルートにも地域差が確認できた.コミュニティ抽出手法で捉えた周遊ルートのパターンでは,台湾のツアーで周遊ルートがより多様化し,且つ地方周遊型の存在感が大きい.しかしながら,中国のツアーは従来からある東京―大阪間ゴールデンルートを重視し,地方部が大都市の脇役になっているとみられる.以上から,同じ富山県を訪れるツアーにおいても,地方訪問を指向する台湾と,大都市に固執する中国のツアーの違いが比較的明瞭にみられる.本研究は地方部におけるインバウンドツーリズムの一例,富山県における訪日ツアーのネットワーク構造を明らかにした.今回の結果は,インバウンドの観光需要を掘り起こす時に活かすことが期待される.