日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、竹内 望(千葉大学)、座長:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)

11:45 〜 12:00

[HTT16-11] 愛知県吉胡貝塚から出土した縄文人骨の亜鉛同位体比による食性解析

*日下 宗一郎1、申 基澈2 (1.東海大学、2.地球研)

キーワード:縄文時代、古人骨

これまで,安定同位体を用いた生物の食性や栄養段階の推定は,体組織中の有機物の分析によって行われてきた。生物の炭素・窒素安定同位体比は栄養段階を反映することから,先史時代の人類の資料においては,骨のコラーゲンの同位体比の分析により食性復元が行われている。これによって,C4植物の摂取や,海産資源の利用などについて明らかにされてきた。また,歯や骨のハイドロキシアパタイトには,炭酸基が含まれており,炭素・酸素同位体比により食事中のエネルギー源を調べることができる。
他方で,マルチコレクタ型のICP-MSの普及により金属元素の同位体分析が盛んに行われ,亜鉛やマグネシウムなどの金属の同位体比も生物の食性を反映するという報告がなされている。本研究においては,新たに生物の硬組織(骨や歯)の亜鉛同位体分析によって,人類の食生態の復元を目指すことが目的である。歯や骨に含まれる重金属の同位体分析によって,その栄養段階を推定できるようになり,その手法は,現生のみならず有機物の残存が望めない考古資料や化石資料に対しても応用できる可能性があるため学術的な意義が高い。
資料は,愛知県吉胡貝塚から出土した古人骨の歯資料37点,ニホンジカの歯6点,イノシシの歯3点やタイ科の骨など6点,現生のアサリ6点,カキ6点現生の植物6点である。資料から亜鉛を陰イオン交換樹脂を用いて分離し,ICP-MSで濃度を測定した。亜鉛の同位体比を地球研のNeptuneによって測定した。亜鉛同位体スタンダードAA-ETHを同位体比補正に用いた。マスバイアスの補正には,Cuスタンダード(ERM-AE633)を添加することで行った。
植物やニホンジカ,タイ科,アサリは,それらの生態から期待される亜鉛同位体比を示していた。縄文人骨の亜鉛同位体比は,植物より高く,ニホンジカや魚よりも低かった。このことは,縄文人が摂取した亜鉛は,陸上哺乳類や海産魚類の肉に大きく由来していることを示唆する。既報告の炭素・窒素同位体比に対してプロットすると,C3植物,海産魚類,海産貝類の3方向へ広がるように分布した。このことは,縄文時代人の食資源のうち,それらが主要な亜鉛源の個人差を生じさせていた可能性を示唆する。よって,古人骨の亜鉛同位体分析は,亜鉛摂取の観点から海産資源利用の評価を行うことができると考えられる。