日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.08

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、竹内 望(千葉大学)

17:15 〜 18:30

[HTT16-P01] 乾季におけるトンレサップ湖周辺の地表水および地下水の酸素・水素安定同位体比特性について

*吉岡 有美1、増本 隆夫2、辻本 久美子3、伊藤 祐二4 (1.島根大学、2.秋田県立大学、3.岡山大学、4.鹿児島大学)

キーワード:安定同位体比、地下水、動的同位体比分別、湖の水収支、メコン川、カンボジア

カンボジア国にあるトンレサップ湖は,東南アジア最大の淡水湖である.一般的な湖沼と同じく,複数の流入河川と単一の流出河川をもつ.しかしながら,雨季にはメコン川の河川水が湖内へと逆流する.そのため,雨季(5月から10月)と乾季(11月から翌年の4月)で湖水位および湖面積が大きく変化する湖である.湖水の起源となる水を評価することは,水収支および物質収支の評価のために重要であるが,周辺地下水と湖水との相互関係については未解明である.そこで,水文トレーサーとして利用が進められている酸素・水素安定同位体比をトンレサップ湖周辺の地表水・地下水について分析し,その特徴について整理した.乾季にあたる2020年2月17日から20日にかけて,トンレサップ湖の北東部から南下し,後西部に至るルートで,湖水4地点,河川水9地点(流入,流出,メコン川支流),地下水8地点を採水した.現地でカンボジアあるいは隣国タイ産のペットボトル水11サンプル,計35の水サンプルを得た.水サンプルは,溶存イオン,溶存ケイ素(DSi),酸素・水素安定同位体比(δ18O,δ2H)を分析した.また,過去にカンボジア国内で得られた降水などの同位体分析結果との比較を行った.湖水のδ18Oは0.0~2.2‰,δ2Hは-18~-9‰の値を示し,すべての地表水の同位体比よりも高かった.河川水は,メコン川支流がもっとも低く,つぎにトンレサップ湖への流入河川,流出河川の順に同位体比が高くなった.地下水の同位体比はδ18O-が7.3~-2.3‰,δ2Hが-52~-21‰のと広範な値を示したが,その平均値は降水量加重平均値とおよそ一致した.地下水の同位体比と井戸深度(3-45 m)との間には明瞭な関係は認められなかった.湖水および流出河川水の計6サンプルに対して,δダイアグラム上で回帰直線(Local Evaporated Line; LELとする)を適用すると,その傾きは5.0となった.同様に計算した回帰直線の傾きは,流入河川水が4.9,地下水が6.2となった.乾季に採水したいずれの水の同位体比は,カンボジア国内で得られたローカル天水線(Local Metric Water Line; LMWLとする)と比較して,傾きが小さくなったことから,蒸発による動的同位体分別の影響を示した.河川水においても蒸発の影響が示唆された.乾季に採水した地下水の値とペットボトル水との間には,同位体比および回帰直線の傾きについて大きな差違は認められなかった.湖水の蒸発前の水の起源を推定するためにLELとLWMLの交点を計算すると,地下水や降水の加重平均値に近い値を示すことが明らかになった.さらに,地下水の滞留時間の指標となるDSi濃度は,北東部の湖水で20mg/L程度と10mg/L程度の河川水よりも高い濃度となったことから,河川水以外の水,つまり地下水の湖水への寄与がある可能性が示唆された.カンボジア国内3地点での降水などの地表水の定期的採水を2020年5月から開始しており,同位体比の経時変化を計測した上で,湖水の起源について詳細な検討を行っていく予定である.