日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.08

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、竹内 望(千葉大学)

17:15 〜 18:30

[HTT16-P13] 冠水ストレスが水生植物の光合成に与える影響

*安井 祐大郎1、半場 祐子1 (1.京都工芸繊維大学)

キーワード:冠水ストレス、炭素安定同位体法、葉肉コンダクタンス

緒論
地球上の様々な環境の下で植物が成長し生きていく上で、光合成により空気中のCO2をいかに効率良く取り込むかは重要な課題である。しかし、自然環境には強光ストレス、低温ストレス、水ストレスなどの多様な環境ストレスが存在し、光合成機能低下を引き起こす。水ストレスの中には、洪水などによって生じる冠水ストレスがある。水生植物は冠水の程度が大幅に変化し、空気と触れる面積が変動することで取り込むことができるCO2の変動が大きくなる。このことから、冠水ストレスによって光合成機能も大きく変化すると予想される。しかし、水生植物では冠水ストレスに対する生態学研究は多く行われているものの光合成機能がどのように変化するのかはよく分かっていない。したがって本研究では冠水ストレスが水生植物の光合成機能にどう影響するのかを探ることを目的とした。

材料・方法
植物材料として、作物であるイネ(Oryza sativa)と湖沼などに群生する野生植物のヨシ(Phragmites australis) の2種のイネ科植物を用いた。草丈はイネで約60cm、ヨシは約150cmになる。プラスチックポットに植物の苗を植え込み、水位を60cmに固定する冠水処理を行って、5日後、10日後、15日後の3段階の光合成機能の冠水応答を調査した。
赤外線ガス分析計LI-7000を用いて葉の光合成機能を表す次の3つのパラメータを測定した。CO2濃度が400ppmの時の飽和光合成速度(A400)、気孔がどの程度開いていたかを表す気孔コンダクタンス(gs)、気孔から取り込まれたCO2が葉肉細胞内をどの程度通りやすいかを表す葉肉コンダクタンス(gm)である。葉肉コンダクタンスは炭素安定同位体法を用いて測定を行った。さらに、二次レプリカ法を用いて葉面積1mm2あたりの気孔数(気孔密度)を測定した。

結果
イネ、ヨシのどちらの種も、冠水により光合成機能を表す3つのパラメータがすべて大幅に減少した。すなわち、冠水によって光合成速度が低下し、気孔を閉じ、葉肉細胞内でのCO2拡散が制限されるといった強い冠水ストレス応答を示した。ヨシはイネよりも、すべてのパラメータについて減少率が高かった。また、気孔密度を比較するとヨシは661個でありイネの約16倍であった。

考察
冠水ストレスを受けた植物において光合成機能を表す3つのパラメーターが大幅に減少した理由としては、まず水中に植物体がさらされたことで気孔の開閉調節に問題が生じ、CO2の取り込みが阻害されたことが挙げられる。さらに、葉に何らかの形態変化が生じたことで葉肉細胞内のCO2拡散が制限されたことも原因の一つであると考えられる。また、ヨシにおいてイネよりも大幅に各光合成パラメーターが減少した要因としては、気孔密度がイネよりも大きかったため、冠水によるCO2の取り込み制限がより大きかったためであると考えられる。以上のことから、冠水は水生植物に対して強いストレスとなること、また植物種によって光合成機能の応答の程度は異なることが明らかになった。