日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT17] 浅部物理探査が目指す新しい展開

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.08

コンビーナ:尾西 恭亮(国立研究開発法人土木研究所)、青池 邦夫(応用地質株式会社)、横田 俊之(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、高橋 亨(公益財団法人深田地質研究所)

17:15 〜 18:30

[HTT17-P01] 接地抵抗による不被圧地下水の水位変化推定の試み(III)
        -周年変化の特性-

*領木 邦浩1 (1.職業能力開発総合大学校 能力開発院能力開発基礎系技術基礎ユニット)

キーワード:電気設備、武蔵野台地、ローム層、宙水、水害、等価接地抵抗

1. はじめに
 不圧地下水の水位と電気設備に付属する接地極の接地抵抗値との関係を調べるため,2019年4月より両者の測定を行っている(領木(2019a),領木(2020a)).これらを検討した結果,両者には関連性が認められるものの,接地抵抗値の変動には地下水位の変動に加え,地温分布の周年変化が影響している可能性が認められた(領木,2020b).ここでは現在までの測定結果を報告し,地温分布の周年変化との関係について述べる.

2. 測定
 関東ローム層のような比較的均一な地質構造を呈するところで地下水位が変化した場合,水平二層構造での第一層の層厚と等価接地抵抗の関係を考慮すると,接地抵抗が変化することが期待される(領木,2019b).そこで,不圧地下水の水位と接地極の接地抵抗との関係を調べるために,関東ローム層が広く分布する地域内に観測井WPTUを設置し,地下水位の変動を10分間隔で測定している.観測井および測定機器の諸元は表1の通りである.観測井では同時に地下水温と電気伝導度を10分間隔で測定している.観測井近傍では電気設備保安用接地電極の接地抵抗を1月程度の間隔で繰り返し測定した.

3. 結果と考察
 観測井における2019年4月23日から2021年1月25日までの地下水の水位,水温,電気伝導度の1時間値の変化を図1に示す.水温の測定分解能は0.1℃であり,測定値は17.7~17.9℃と安定している.また,電気伝導度の分解能は10μS/cmで,観測値は概ね260~330μS/cm程度である.図1を見ると,観測坑掘削直後の不安定な時期を除けば水位が急上昇するときに電気伝導度が上昇し,水位が比較的緩やかに低下してゆくと電気伝導度も低下していることがわかる.
 図2は,4階建鉄筋コンクリート建造物のA種接地(電気設備の技術基準の解釈第17条の規定による)の接地抵抗値と,同時刻に観測された水位および観測井直上での気温を示したものである.気温の図には10分間隔での測定値を10日間で移動平均を取った値の曲線を添えてある.また,水位の図には1時間値の曲線が加えられている.
 図2を見ると,大局的には水位が上昇すると接地抵抗が低下し,水位の低下に伴って接地抵抗が上昇していることがわかり,両者の関係は調和的である.一方,気温の10日間の移動平均曲線に現れる周年変化と水位の変化を比べると,調和的であるが,位相は一致していない.概ね,気温の上昇時には接地抵抗は低下し,気温低下時には接地抵抗が上昇している.これらの極値付近に着目すると,接地抵抗の気温に対する位相の遅れは2ヶ月程度あることが分かる.
 海成粘土層が露頭する地域では海成粘土層に含まれる硫化鉱物の酸化に伴って地電位が形成されるとき,その周年変化が気温に対して遅れていることが報告されている(領木,1990).領木(2020b)はこれを受けて,接地抵抗も地温の影響を受けるため,接地抵抗値の周年変化は気温に対し遅れ現象を示すであろうことをことを示唆した.図2に示された測定結果は,この指摘に調和的である.

4. 今後の計画
 現在測定継続中の (1)地下水の水位,(2)地下水温,(3)地下水の電気伝導度,(4)接地の抵抗値,(5)気温 に加えて,(6)大地の見掛抵抗率,(7)降水量, (8)地温 を,それぞれ1時間間隔で取得する準備を進めている.発表ではこれらの測定結果についても報告する予定である.

謝辞
 本研究はJSPS科研費JP18K03793の助成を受けた.記して,感謝します.

参考文献
 領木邦浩(1990):自然電位の年周変化 身近な地球物理学現象の教材化をめざして,大阪と科学教育,4,
  25-32.
 領木邦浩(2019a):接地抵抗による不被圧地下水の水位変化推定の試み(I)-理論の概要-,日本地球惑星科
  学連合2019年大会予稿集,HTT22-03.
 領木邦浩(2019b):不被圧地下水水位変化に伴う水害予測のための接地抵抗変化を用いた水位推定法の理
  論,技能科学研究,35, 30-35.
 領木邦浩(2020a):接地抵抗による不被圧地下水の水位変化推定の試み(II)-武蔵野台地での予察的観測
  -,日本地球惑星学連合2020年大会予稿集,HTT18-P07.
 領木邦浩(2020b):接地抵抗と地下水位の関係についての一考察,地下水地盤環境・防災・計測技術に関す
  るシンポジウム論文集,8, 18-21.